Phase.70 オペレーション・ダファーズ・ドリフト(愚者の渡し作戦)その3「有刺鉄線という名のシン兵器」
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「次に」と言って、シグルドは砦の倉庫の扉を開いた。「使える道具はすべて使え。
「はい!」
かび臭い倉庫の中には、砦の補修道具とともに土嚢やつるはし、シャベルといった塹壕構築用の道具が揃っていた。
「アイズ軍曹、これなんてどうでしょうか?」
ダウグ大尉が覆いを取って引き出したのは、回転するように束ねられた複数の銃身を持つ、クランク・ハンドル式の速射砲だった。マキシム銃の発明で旧式化したとはいえ、以前として植民地や西部などでは使い続けられている。
「ガトリング銃か」
「弾薬もたっぷりあります」
「……いいだろう。機関銃なら、こちらにも南軍から鹵獲したマキシム銃がある」
シグルドはテーブルに砦の周辺地図を広げ、先ほど選んだ防御塹壕を射界に収められる丘の中腹を指さした。
「ここにマキシム銃を備え付けて、機銃陣地とする。ガトリング銃は移動には適さない。ここと、この胸壁の上に備え付けて、確固で援護させる」
「はい!」
「他になにか使えそうな武器は?」
「はっ! えーっと……」
ダウグ大尉は周囲を見回すが、武器らしいものといえば、破損したまま隅の方に放置されている十二ポンド・ナポレオン砲ぐらいのものだった。
「さすがにこれは使い物にならないと思うし……他はとくにありません!」
「不合格だ」
「うぐっ!」
ダウグ大尉はしゅんと俯いた。尻尾が元気なく垂れ下がる。
「お前は一番大事なものを忘れている」
「大事な物、ですか?」
「そうだ。ジョセフ・グリッテンの偉大な発明。機関銃と並ぶ、アメリカが生んだ恐ろしい兵器を」
シグルドは倉庫の奥に進み、棚の上に置かれた包みを破った。中には農場などの区画整理に用いられる鉄線が巻き付けられている。
「有刺鉄線、ですか……」
「これを塹壕に張り巡らせる。広げるだけでいいから手間もかからない。鉄条網と言ってな、南アフリカのボーア人たちがよく使う手法だ」
「こういう使い方があるなんて、学校では習いませんでした。勉強になります」
「……知らない方がいいこともある」
シグルドは皮肉げに言って、砦の全周を囲うように、丘の斜面に沿って有刺鉄線による柵を配置するように地図に書き込んだ。
「先ほどの防御塹壕は、言うならば、敵の攻撃を引きつけるための囮だ。斜面に沿って、砦に続く連絡壕を掘る。丘を駆けのぼろうとしても、鉄条網に阻まれて上手く進むことができない。そこを攻撃する。本体は中腹の機関銃陣地、そしてグラント砦だ」
「わかりました。でも、これだけの規模の塹壕を掘るとなると、準備しようにも人手が足りません……。町の人たちは、すでに……」
「フォート・グラントにいるのは、町の人たちだけじゃないだろう」
「えっ?」
「言っただろう。使えるものはすべて使えと」
シグルドはシリアスヴォーゲル川の向こう側を指さした。
「
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