Phase.69 オペレーション・ダファーズ・ドリフト(愚者の渡し作戦)その2「防御塹壕の構築」
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「若いな。何歳だ?」
「二十一歳です」
「なるほど。
「はい。戦時階級で大尉に」
「…………。……お前、今年度の
「えっ、えっ、ど、どうしてわかったんです?」
「納得だ」
午後三時。エンジェル・アイズ軍曹こと、シグルド・ヴァン・クリーフとディッピー・ダウグ特任大尉は砦に近いシリアスヴォーゲル川の岸辺に立っていた。
川の流れは一見すると穏やかそうに見える。今の時期は増水する危険もない。河水が真っすぐに切り立った崖の下を流れているが、両岸の傾斜があまりにも急なため、中央部の浅瀬でなければ、馬車などの車両が渡河することはできなさそうだった。
また、この崖は底から頂上に至るまで、茨などの密生した灌木が生い茂っており、視界はひどく制限された。
「シリアスヴォーゲル川があるおかげで、敵が渡河できる場所はこの浅瀬に制限されます。地元の人間は、ここを〈
「ダファーズ・ドリフトか。他に浅瀬はないんだな?」
「上流と下流の数マイルにわたって浅瀬はありません。ここ以外は流れが急になってくるので、馬で渡るのも難しいでしょう。それは着任した日に調べさせました」
「そうか。大尉だったら、防御塹壕をどこに作る?」
「そうですね……」
シグルドの問いに、ダウグ大尉はしばらく考え、ドリフトからすぐ東に位置する地面が少し盛り上がったところを指さした。
「理由は?」
「守るべき浅瀬に近く、川が馬蹄のように湾曲していて、三方向が囲まれています。あれは、ある種の堀というか、つまり戦術の教科書に出てくる『天然の障壁』に見立てられます。防御塹壕を作るのには理想的な場所だと思います」
「不合格だ」
「えっ、なぜです?」
「周りを見ろ。周囲が川に囲まれているということは、そこまで深い塹壕を掘ることができないということだ。それに、岸辺には茂みがあるだろう。あそこに隠れれば、周囲から一斉に塹壕を狙い撃つことができる。仮に低い胸壁を作ったところで、射撃の度に顔を出して敵を探さないといけないようでは、なんの意味もない」
「な、なるほど……」
ダウグ大尉は頷き、手帳にシグルドの『教訓』を書き込んだ。
効果的でない塹壕は、むしろ敵からの攻撃を集めるだけだ。もし、あそこに陣地を構築していたら、至近距離からライフルの一斉射撃を浴びることになっただろう。
「浅瀬が移動することはない。守るべき地点が決まっているなら、必ずしも近くに陣取る必要はない……とすると、どうだ?」
「うーん……」
ダウグ大尉は考え、ドリフトから東に七、八百メートルほど離れた、川岸から地面が緩やかに盛り上がっている地点を選択した。
「理由は?」
「あそこなら、包囲されることなく浅瀬の全体が狙えます。仮に敵の騎馬隊が浅瀬を渡河して突撃してきたとしても、塹壕までは距離があるので、その間に狙い撃つことができます」
「まあ、この浅瀬を守るという点においては、正解だな」
「やった!」
両手を上げて素直に喜ぶダウグ大尉に、シグルドは「それで」と続けた。
「塹壕はどのように掘る?」
「えっ、それは……規則通り、五十メートルほどの塹壕を真っすぐに」
「不合格だ」
「ええっ!」
驚きの声を上げるダウグ大尉に、シグルドは眉をひそめた。
「お前は
「た、大砲か……気づかなかった」
「それに、塹壕をここだけに敷くというのも間違いだ。闇に乗じて側面から攻撃を受けるかもしれない。塹壕の正面の敵と戦っている時に、横から攻撃されたらひとたまりもない」
「た、確かに」
「榴散弾の断片を防ぐには、少しの土があれば充分だが、真っすぐに掘るとそれもできない。側面から攻撃されないためにも、塹壕が一直線になるのは避けるべきだ。必ずしも塹壕に留まらないといけないというものでもない。蛸壺のような穴をたくさん掘って、隠れながら移動して、敵を翻弄することも必要だ」
「な、なるほど……」
手帳に『教訓』を書き込むダウグ大尉に、シグルドは「そして一番大事なことは」と続けた。
「戦場全体を見渡せる位置を確保することだ」
「それって……」
シグルドは振り返って、丘の上を指さした。
「あの砦は絶好の位置にあるということだ」
「わかりました! 一部に塹壕を掘るのではなく、ウォッシュアウトの丘一帯をすべて防衛陣地にするってことですね?」
「正解だ」
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