Phase.62 ラブレス一味、始動
62
「博士、連レテ来タゾ」
「ご苦労」
数分後、ヴォルテールの後にぞろぞろと続いて、部下の三人が集合した。
一人目は痩せこけ、真っ青な顔をした長身の男。二人目はこの駐屯地ではまるで場違いな深紅のイブニング・ドレスに身を包んだ美女。そしてもう一人が狩猟用のジャケットを身につけ、モノクルを嵌めた紳士だった。
「お前たち、よくぞ来てくれた」
「なに言ってんだい。あんたが呼びつけたくせに」
美女ハダリーの罵声を無視し、ラブレス博士はごほんと咳払いをした。
「早速だが、頼みたいことがある」
「こここっ、殺し、ですか?」
「そうだ。察しがいいな、ホームズ」
「ああ、ありがとう。ありがとう……」
殺しと聞いて、瘦せ男、H・H・ホームズは嬉しそうに口もとを歪めた。ラブレスの手を取って何度も何度も頭を下げる。
「ここは退屈。南軍兵士は殺すなって言われたから、私、ちゃんと言いつけ守った。ああ、すごく退屈だった……もう、もう我慢の限界で……」
「ああ、ああ、かわいそうなホームズ。つらい思いをさせてすまなかったな……」
ラブレスは慈愛の表情を浮かべ、ぽんぽんと頭を撫でる。そんな博士を至近距離で見つめ、ホームズの目に光が灯る。
ホームズは包むようにそっと両手を差し出した。
「は、博士……」
「ん、なんだ?」
「死ねぇええええええ!」
「ぐぇえええええ!」
その刹那、ホームズは両手に力を込めて、全力で首を締めあげた。
「がっ、がはっ! た、助けろ、ヴォ、ヴォルテール!」
「了解ダ」
傍に控えていたヴォルテールがすぐに男を引き離す。大男にひょいっと抱えられ、ホームズはじたばたと足をばたつかせて暴れていたが、しばらくしてはっと我に返った。被っていた帽子を胸の前でぎゅっと持って、涙を浮かべて頭を下げる。
「す、すみません、博士……嬉しくてつい……」
「は、はあはあ……こ、殺す気か、この野郎……」
「それやるの何回目よ。こんな殺人狂に近づいちゃダメってそろそろ気づかない?」
「すみません……すみません……」
かつて全米を震撼させた
「
「ピンカートンの一小隊だ」
ラブレスは息を整え、懐から秘密電信の紙を取り出した。
情報はラブレスが長年かけて築いてきたスパイ網によるもので、ピンカートン探偵社や北軍の上層部に潜り込ませたエージェントから直接送られてくる軍事機密は、南部連合秘密通信部という名ばかりの諜報組織のものより遥かに信頼性が高かった。
遠征用の印刷エンジンは繊細さよりも頑丈さが求められるため、点刻写真の画質などもかなり粗いかったが、それでもリーダーの顔を認識するのには充分だった。
「探偵社の連中に偽装しているが、まず北軍の独立部隊と見て間違いない。どうやら、ここを嗅ぎつけたらしい」
「なるほど」
「部隊を率いているのは、エンジェル・アイズとかいう退役軍人だ。ここの守りは固いから、一小隊でどうにかなるとは思えないが、念には念をだ。見つけ出して無力化しろ。できれば一人も生かして返すな。いいな?」
「了解」
モノクルの紳士――セバスチャン・モラン大佐は電信用紙を受け取ると、じっと口を閉ざして対象を見つめた。
「でも、この広いオクラホマで一から探せっていうの? 無茶じゃない」
「ふっ、この地を目指しているということは、補給の場所は限られる……先んじて待ち伏せするのだ。フォート・グラントでな!」
「フォート・グラント……ああ、インディアン・シティのことね」
「ふん、そんな汚らわしい名前で呼ぶな」
「グラントってたしか北軍の将軍だったわよね。そっちはいいの?」
「汚らわしい先住民がつけた名よりは幾分かマシだ。リーに敗れた無能とはいえ、アメリカ人だからな」
「あっそ」
ハダリーはとくに興味なさそうに言って、ぷいっとそっぽを向いた。
「五日後には試射実験がある。それまでに片付けて帰ってこい。とくにホームズ! 勝手に動かずモランの指示に従え。いいな!」
「は、はい! もちろん……」
ホームズはモランと目が合い、ビクッと縮こまるように慌てて視線を逸らした。
「よし、それじゃあ、さっさと行ってこい! ラブレス一味、出動!」
「自分で言うの? だっさ」
――つづく
シャーロック・ホームズとセバスチャン・モラン大佐って珍しい組み合わせだと思った?
残念! 全米一のサイコ野郎の方のホームズ(ドクター・ヘンリー・ハワード・ホームズ)でした~。
コツコツと続けております、『UNDERSHAFT Ⅱ -ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ディキシーランド-』も最終幕に突入!
もしよろしければ、レビュー・感想・いいねなどよろしくお願いいたします。
(*- -)(*_ _)ペコリ
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