Phase.58 無人の荒野にて




     58




 追手を文字通り全滅させたカネトリと〈トム・ソーヤー〉の一行は、その場に死体を残したまま、さらに西に向けて進路を取った。

 目指すはオクラホマの中心にあるとされる先住民の町、インディアン・シティだ。

 先住民の町とは言っても、交通手段は馬車だけであり、鉄道も電信も通っていない。ここは万国電信網から取り残された唯一の土地、完全なる先住民の居留地テリトリーなのだ。

 ここまで奥地に入ってくれば、南軍どころか北軍と遭遇することもまずない。戦略的にも、ここを抑えてもあまり意味がないからだ。

 視界に広がるのは、開拓民も一人としていない無人の荒野ノーマンズ・ランド。大気は乾き切っており、蜃気楼によって像が歪むために視界も効かない。

 すぐに熱波と水分不足が一行を襲った。当初は、無事に生き残ったという安堵感と歓喜に満たされていた一行も、次第に口数が少なくなり、沈黙に包まれた隊商キャラバンのような一行は一歩一歩、ただひたすらに先を急いだ。


「くそっ、唇が切れる……。わかってはいたが、これほどとは……。ハックさん、みんな限界が近そうだ。少し行って休もう」

「そうだな」


 数時間後、一行はちょうど日陰になっていた大きな岩の陰で馬車を止めた。そこは高台に囲まれた窪地になっていて、近くには赤く汚れた池がぽつんとあるオアシスだった。

 そこで一行は馬車を飛び降りて池に飛び込んで水浴びをした。岩塩質のためか、池の水はやや塩気を帯びてはいたが、煮沸してろ過すれば、飲めないこともない。

 しばらくして塩っぽいコーヒーを飲んで周囲を見回していたカネトリは、ふと高台に人影が立っていることに気づいた。すぐに女と子どもたちが馬車の中に集められ、地下鉄道の男たちが銃を持って警戒に当たるが、時すでに遅しだった。

 周囲の人影は包囲をすでに完了しているようで、じっとこちらの様子を伺っている様子だ。こちらが付け入られるような隙はなく、その動きは統率が取れた、明らかにプロの兵士のそれだった。


「先住民か? アパッチ族みたいなのじゃなければいいが……」

「野郎! 不気味な奴らめ!」

「待て、下手に動くな。的にされるぞ」


 機関銃は陣地に備え付け、一点に向けての制圧射撃は有効だが、囲まれていてはあまり効果を発揮しない。それにここは窪地の底だ。こちらからの弾は岩壁に阻まれるが、相手からは丸見えも同然だった。


「ハックさん、この中に先住民の言葉を話せる人はいるか?」

「チェロキー語ならわしが少し話せるが……それ以外だと、難しいかもしれないな」

「最悪、撃ち合いになったら全滅は免れないぞ。こちらから使者を送ろう」


 協議の末、幌を裂いて作った白旗を掲げ、カネトリとハックルベリー・フィンが接触することになった。

 旗を肩にして、両手を上げて岩山にゆっくりと歩いていくと、相手側からも数人の使者が出されたらしく、こちらに向かって下ってきた。

 数メートルの距離まで迫り、その先頭に見知った顔がいることに気づいて、カネトリは「うげっ!」と嫌な声を上げた。


「な、なんでお前らがここに……」

「あれー、先輩じゃないですか! 奇遇ですねぇ」


 リッチモンド要塞で別れたはずの後輩は気軽に笑った。その隣にいたもう一人、テンガロン・ハットを目深に被り、メキシコの農民のようなポンチョを纏った目つきの鋭い男――シグルド・ヴァン・クリーフは、軽く舌打ちして訝しげに眉をひそめた。


「武器商人……なぜ、お前がここにいる?」




――「Act.2 地下鉄道と南部のウサギ」終わり(Act.3につづく)

偶然にも再会した一行、果たして最果ての地、無人の荒野ノーマンズ・ランドで待ち受けるものとは!


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

ついに次回から第二部の最終章!(いやー、長い!!)

様々なことに忙殺され、執筆が遅くて申し訳ないです。

もしよろしければ、レビュー・感想・いいねなどよろしくお願いいたします。

(*- -)(*_ _)ペコリ

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