Phase.57 お前の魂はいらない




     57





 戦闘はほんの数分で終了し、襲撃者の血を吸って赤く染まった砂の上は、まだ濡れたままの死体や瀕死の男で埋め尽くされた。彼らは等しく血の気の引いた顔をして、視力のない目を、砂漠を容赦なく照らす灼熱の太陽に向けながら横たわっていた。

 カネトリは近づくと地面でうめいている生き残りの頭をリボルバーで容赦なく撃っていった。それは帝国の植民地部隊がするような、反乱を起こした先住民の処刑にもよく似ていた。


「お、お前が……父上を殺したのか?」

「あ?」

「父上を殺したのかと訊いている!」


 砂上で身を起こすためにもがいていたケビン・ストーンマンは、撃たれた腹を手で押さえて荒く息をしながら、カネトリを睨みつけた。


「……ああ、そうだったな。そうだ。レイプの途中だったからな、俺が殺しちまった。悪かったな」


 カネトリは軽く謝罪し、銃を向けた。話を聞く時間などないし、この青年に対してはさして興味もわかなかった。


「おい、ちょ、ちょっと待――」


 パンと軽い銃声が鳴って、名も思い出せないKKK団員クランズマンの青年は死んだ。


「ぐっ、くそったれ……。おい、こら、ジョン・ブル!」

「…………」


 やがて、カネトリは『処理』を終え、最後に残った一人の前で足を止めた。

 腹と胸を赤く染めたクリス・マニックスは口もとに不敵な笑みを浮かべ、赤く濡れた愛馬の腹にもたれていた。


「機関銃は卑怯だろが、さすがによ……」

「まあな。卑怯さには定評がある」

不誠実な英国パーフィディアス・アルビオンか。くっ、クソったれ……」

「最後になにか言い残すことはあるか?」


 カネトリはウェブリー・リボルバーを折って、ポケットから出した新しい弾薬を一発ずつ装填しながら言った。


「そ、そうだな……」


 マニックスは肺に穴が空いているのか、ヒューヒューと荒い呼吸をしながら、ペロッと舌を出して、突如としてバネのように跳ね起きた。



「お前も死――」



 そして、リジルに肩を射抜かれて、突き出したナイフを取りこぼした。


「うぐっ!」

「……」


 次弾で太股を撃ち抜かれ、カネトリの足下に跪くように倒れる。


「わ、〈ワン・オブ・ワン・サウザンド〉……西部の地に彷徨う、伝説のウィンチェスター銃。くくくっ、そうか。この俺の魂も、この魔銃に囚われてしまったってことか」

「…………」

「おい、ケモノ娘ファージー・ガール。最期にいいか……」


 マニックスは血まみれの手で砂をぎゅっと握り絞めると、両手をついて身を起こしながら、リジルに向けてニヤリと笑った。


「その銃にトドメを刺されるなら、光栄なことだ。俺の魂も、一緒に連れていけ」

「わかった」


 リジルはレバーを一往復して引き金に触れるが、薬室からはカチっという軽い音が返ってきただけだった。


「あ、弾切れ」

「残念。どうやら、お前の魂はいらないみたいだな」

「くっ、クソったれのジョン・ブルうううううううーっ!!」

「ちなみに俺もいらん」


 カネトリは撃った。さして珍しくもない英国製の大量生産品に頭を撃ち抜かれたクリス・マニックスは、憤怒の形相を浮かべたまま真後ろに倒れて絶命した。



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