Phase.56 虐殺の再現




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 すぐに追手の先頭集団が渓谷を越えて砂漠に入ってきた。先頭の五人が鞍の上で前傾姿勢を取っているのが見える。一目で無法者だとわかる襲撃に慣れた輩たちで、その中にはクリス・マニックスの姿もあった。

 そして、もう一人、その少し後ろで白馬に乗るのは、決勝戦でリジルと対決したストーンマン家の御曹司だった。そのさらに後方、ケビン・ストーンマンの後ろに続くのは、白装束の不気味な男たちで、こちらはKKKの〈ナイト・ライダー〉に違いなかった。

 男たちは砂丘の上に停まっている幌馬車めがけて一直線に殺到する。総数は三十人ほどで、それぞれ銃身の短いカービン銃や拳銃を手にしていた。


「……焦るな。まだ待て」


 この作戦を立案した英国の武器商人は、屈んで双眼鏡を覗きながら周りの男に言った。


「あまり見るなよ! 騎兵突撃の狙いは迫力で相手を恐れさせて戦意喪失させることにある! 距離を保てば、突撃力それ自体は大したことない。前時代的な、古い戦法だ。砂漠に入って、坂を上るタイミングで動きが鈍る。それを狙うぞ!」


 パンパンと銃声が打ち鳴らされ、追手がさらに距離を縮める。


「ヒャッハー! 皆殺しだあああああ!」


 充分に射程圏内に入ったところで、「今だ」とカネトリは短く言った。

 馬車の側面の覆いが外され、その中で銃を構える〈トム・ソーヤー〉の男たちが姿を現した。その中心に備えられているのは、アンダーシャフト社からバトラー商会への贈り物――カネトリの主力製品である、ヴィッガース銃だった。


「――撃てファイア



「なっ、機関銃だと! 散開! 散開し――」


 銃声は繋がっていた。血と砂の雹が大地を叩く。相手が獲物であると油断していた男たちは、驚きに固まった状態で落馬していった。馬は足をもつれさせて前のめりに倒れ、それが後続を巻き込んで大惨事となる。

 銃撃はさらに激しさを増した。毎分五百発の連続射撃。弾帯がスルスルと機関部に吸い込まれていき、銃口からは次々と死が吐き出された。薬莢が側面から吐き出されて砂の上に落ち、互いにぶつかり合ってキーンキーンと金属音を立てる。

 リジルも撃った。逃げて増援を呼ばれないように、後ろの男たちから〈ワン・オブ・ワン・サウザンド〉で一人ずつ着実に仕留めていった。

 馬に乗った男たちは一つの大波になって押し寄せ、そして死んでいった。

 それはいつか、南アフリカの大地で見た虐殺の再現だった。



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