Phase.55 稼がせてくれよ、武器商人ちゃん!




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「お頭! 気球からの合図がきました! 例の連中らしき一団を発見したそうです」

「来たぜ、きたきたきたあああああ! オレ様の読み通りだ!」


 フォート・スミスの周辺を見渡せる高台の崖の上、木陰で休んでいたクリス・マニックスは興奮気味に飛び起きると、手にしていた双眼鏡を覗いた。

 遥か彼方に見えるのは、土ぼこりを上げながら全速力で進む幌馬車の一団だ。一見すると、南軍の輸送部隊の一団のようにも見えるが、事前にオクラホマ方面への作戦行動がないことは確認済みなので、彼らが偽装した〈トム・ソーヤー〉の一行であることは間違いなかった。


「はっ、移動経路を潰しまくって、砦の見張りを買収したかいがあったってもんだ」

「さすがですね、お頭!」

「まあな! 俺様は天才だからな!」


 マニックスは双眼鏡をしまうと、周囲で待機させていた一団に合図を出した。

 強奪団のいつものメンバーに、ウェイド・H・バトラーの指示で、フォート・スミスに勤務していた兵士の中にいた〈クー・クラックス・クラン〉の団員二十人が新たに加わり、今や小隊規模の大所帯に膨れ上がっていた。

 マニックスはそれが気に入らなかったが、それがウェイドのつけた『首輪』の意味合いも大きいことを知っていたので、とくになにも言わないことにした。


「さあて、野郎どもお仕事の時間だぜ! 懸賞金はなんと一万ドル! しかも、KKKの連中はいらないと言っているから丸ごと山分けだ! いいな!」


「「「――おう!!」」」


「ベリー・グッド! 例の武器商人は殺すな。それと、俺の〈ワン・オブ・ワン・サウザンド〉も回収しろ。あと、なんだっけ、お前の――」


 声を合わせる男たちに満足げに頷くと、マニックスは白馬に乗る隣の同伴者に目を向けた。


「ケビン・ストーンマンだ! うちのコゼットもだ! 無傷で連れ帰るようにと何度も言っただろうが!」

「オーケー、オーケー、それじゃ、ウサギ獣人の娘も殺すな。もし他にもいたら、どっちかは無傷で生かしておけ。他は皆殺しだ! それじゃあ……出撃だ!」


 馬に跨った男たちが次々と駆けだしていく中、グリフィス青年も馬に跨ろうとするが、栗毛の馬は不機嫌そうに鼻を鳴らしてへたり込んでしまった。


「ちょ、ちょっと! おい、こら! 早く立て!」

「はん、グリフィスぼうや! お前に騎兵隊の真似事はまだ早いぜ。馬をなだめてゆっくりと追いつくんだな! はっ!」

「待ってくださいよ、お頭~!」


 グリフィスの呼びかけをよそに、マニックスは馬に飛び乗って鞭を振るった。後ろに手綱を引かれ、愛馬は大きく前足を上げ、弾みをつけて他の馬を追って全速力で飛び出していく。

 馬たちはもうもうと土を巻き上げながら、一団に固まって最短距離で獲物を追う。まさしく、それは狩りに違いなかった。


「ヒャッハー! 殺しだ! 殺しだ!」

「あんな幌馬車で逃げ切れるかよ! 追撃舐めんなっつーの!」

「皆殺しにするじゃん! 武器商人だけ連れ帰って懸賞金たっぷりじゃん! 楽な仕事だぜ!」

「稼がせてくれよ、武器商人ちゃん!」





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