Chapter.Ⅷ グレート・ロコモーティブ・チェイス・アゲイン

Phase.49 発覚




     49




「ジッパ・ディー・ドゥー・ダー♪ ジッパ・ディー・エィ♪ こりゃ、なんともいい日だ♪ 太陽が光り……」


 頭の後ろで手を組んでハンモックにゆったりと横になったクマ獣人は、鼻歌交じりに低い声で歌いながら、ぶどうを一つ千切って口の中に放り込んだ。


「おーい、クマどん。交代だぞ!」

「んああ~、キツネどんか。もうそんな時間か」


 部屋に入ってきたキツネ獣人にクマどんと呼ばれた獣人――ブレア・ベアは、大きなあくびをしつつ、残りのぶどうを全部飲み込んだ。


「オレの留守中、なにか変わったことはなかったか?」

「いんや、なんにもねーよ」


 ブレア・ベアはのんびりとした調子で答え、ハンモックから起き上がってグッと伸びをした。


「そうか。そんならいいんだ」


 相棒のキツネ獣人――ブレア・フォックスは言いつつ、窓のカーテンに設置された望遠鏡を覗き込んだ。

 そのレンズは通りを挟んだファイアリー・クロス・ホテルの一室に向けられている。その一室には件の武器商人の一行が宿泊していて、そいつらが夜逃げしないように外から見張るのが、マニックス強奪団の首領、クリス・マニックスから言いつけられた役目だった。

 部屋のカーテンはほとんど閉め切られているが、部屋を歩き回っているらしい人影が隙間からチラチラ横切っているのが見える。もう深夜で、ほとんどの部屋の灯りが消されている中、一室だけ点ったその灯りはやけに目立った。


「よしよし、ちゃんといるようだな……」


 フォックスは満足げに頷いた。夜食に買ってきたウサギの丸焼きを食べようと口を開いて、ふとその異変に気づく。

 カーテンの隙間を横切る影が、やけに一定の速度で動いていたからだ。


「……おい、なんかおかしくねぇか。クマどん」

「んー、オラもう眠いんだ。後にしてくれよ~」

「いや、これは……」


 一分後、その異変を確信したキツネどんは、その長い口をあんぐりと開いて、宙高くに飛び上がった。


「なーんてトロいんだ、この馬鹿! 馬鹿! あんな仕掛けに騙されやがって! マズい、これはマズいぞ……っ!」


 フォックスは部屋を飛び出すと、通りを横切ってホテルに駆け込んだ。ホテルの夜間係員が静止する間もなく、階段を駆け上がってその一室に向かう。

 息を切って部屋に飛び込んだ時、部屋には誰もいなかった。小型蒸気機関に繋がれた機械が、人型に切り取られた紙をカーテンの前で左右に動かしている以外は。


「あ、ダメだこりゃ……」


 キツネ獣人は愕然と膝を折った。


「ジッパ・ディー・ドゥー・ダー♪ ジッパ・ディー・エィ♪ ……んー、そんなに慌ててどうしたんだい、キツネどんよ?」


 その後ろからのろのろと階段を上がってきた相棒は、呑気にあくびをしながら言った。





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