第93話

 「神の啓示?あぁー、多分難しいと思うよ」


 森に入って二日目。馬を休ませる為に休憩してる時にアドルと話をしていた。領軍が主催する武術を競う大会で優勝したら転職出来るって話を兵士から聞いて、騎士団にはそういうのないかなって思ってアドルに質問してみた。


 「神の啓示を受けるにはかなりお金払わないといけないから中々出来ないんだよね。それに騎士団は基本的に神の啓示を受ける事を推奨してないからなぁ」


 アドル曰く、神の啓示を受けて弱くなるケースが結構あって高い金払うのに弱くなるなんてたまったもんじゃない、との事。


 どうやらその考え方は騎士団だけじゃなくてエルドール王国内の貴族の中では結構常識になっていて率先して転職しようとする人は少ないらしい。


 アドルの話を聞いてるとどうも転職についての詳しい内容はよく分かっていない、どころかジョブと言うものに対して重要視していない様だ。


 「平民の間だと神の啓示を受けるのって成り上がるチャンスだと思ってる人は多いみたいだけどね」


 平民が一生働いても転職を行える額のお金は手に入らない。神の啓示はある種の憧れや幻想に近い、貴族から見れば、平民の神の啓示に対しての価値観はそう感じるみたいだ。


 話を聞いてると、どうやら貴族は基本的に生まれながらに戦闘に特化したジョブについてる事が多いっぽい。ジョブの特性や重要性が分からない状態で闇雲に転職しても、単純に弱くなったとか、自分が思ってたのと違う、って感じたりしても仕方ないのかなぁとか思った。


 「かなり昔にエルドール王国の王族の一人が神のお告げを聞いてステータスの確認を行ったら職業が剣士だったんだって。俺がそこらの奴らと同じ剣士な訳ねぇって事で、大金払って神の啓示を受けたら変更できる職業が商人だけだったらしくて。その方は大層ご立腹になられて職業はダグダ教のまやかしだって言ってダグダ教を糾弾したらしいよ」


 随分プライドの高い人だったみたいだけど人望は結構あったみたいで、その人を支持する貴族達がこぞってダグダ教を糾弾した影響で国中の人達がダグダ教を信じなくなった。むしろ悪だって思うようになって、急速に求心力を失ったらしい。


 そこでダグダ教は、それまで転職と同じようにバカ高いお布施を要求していた神のお告げ、ステータスの確認を子供に無料で行い、優秀な人材を見つけて貴族や有力者へ情報を紹介するといった事を始めたらしい。


 貴族や有力者は優秀な人材確保が可能になり、召し上げられた平民は貧困から脱する事が出来るようになる人達が現れるようになって、王族を中心とした糾弾によって失墜した求心力や権力を時間をかけて貴族や有力者達、平民達からそれぞれ取り戻したそうだ。


 だけど未だに転職についてはどうも失敗する事が多いみたいで、現実的にお金が用意出来る貴族達はあまり関心を示さなくなってしまった様だ。これって多分ダグダ教の人等もジョブについては詳しくないって事だと思う。


 前世でゲームをプレイしてる中で主人公がダグダ教と対立する場面がちょいちょいあった。ゲームで語られたダグダ教は金と権力の亡者達の集まりって感じで、ダグダ教の上層部の最終目的はエルドール王国の乗っ取りだったけどその割にはダグダ教が持つ武力は微妙だった。


 転職やらなんやらを扱っているのだから自分達の戦力増強に利用すればめっちゃ強くなれるはずなのに。それにジョブや転職の価値を高めればかなり大儲け出来るだろうに、貴族達が転職に興味を示していない現状を考えると、ダグダ教はジョブ関連の知識はあまり持ち合わせていないんだろうなって思った。


 ダグダの使徒であるチャイカはその辺の事は理解してるっぽいから集めた子供達をばんばん転職させて戦闘力を上げていた。


 もう一個、驚いたのが貴族は転職の宝玉の存在を知らないみたいだ。アドルが知らないだけって事もあるだろうと思ったから兵士達やガルグにも聞いてみたけど、え?何それって反応だった。こりゃどういう事だろう。


 ゲーム序盤からどこの街の魔道具屋に行っても普通に売っていたのに。ただ序盤で売ってはいるんだけど、めちゃくちゃ高いので、結局お金がある程度貯まっているであろう ゲーム中盤までは買えない。


 それに、もしゲーム序盤で転職の宝玉を購入したとしてもジョブの発現条件を満たしていないと転職が出来ない。


 しかも転職の宝玉は転職する、しないに関係なく使うと宝玉は割れてしまう一回切りのアイテムなのでゲーム序盤に売っているからと言って、手にしてもあまり役には立たない。そんなお金があるなら先に武器や防具の購入に使った方がいい。


 でも何で皆んな転職の宝玉の事を知らないんだろうか。色々皆んなが知らない理由を考えてみたんだけど、考えても考えても、よく分からなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る