第92話

 サインスを出て四日程、特に何も起こる事なくのんびりした旅路を過ごした後、森に差し掛かろうとしていた。


 こっから二日掛けて森を抜ける事になるけど、魔物が出てくる可能性は高いみたいだ。ここまでの道中は皆んな、のほほんとしていたけど森に近づくにつれ口数が減り、特に先頭を歩く兵士達からは緊張感が伝わってきた。


 森に入る直前でガルグが馬を降りた。森を抜けるまでは先頭の兵士同様に歩くみたいだ。


 「このゆっくりと進む中で魔物に襲われたら馬上だと俺の場合は対応しづらい。ネールはそのまま馬に乗って辺りを警戒してくれ」


 ガルグは背中に背負うハルバートじゃなくて、腰に差してる剣を抜いて警戒した。僕はまだ乗馬の訓練を受け始めていないので一人で馬に乗れないけど、手綱はガルグが持ち馬を誘導してくれたので問題なかった。


 僕らが進む森の中の道は、かなり荒れていて、ぱっと見ギリギリ道だとわかるようなただ地面を草とか関係なく踏み鳴らしただけの獣道って感じだった。


 道幅は結構あるので僕の後ろの馬車は通る事自体は問題無さそうだけど、かなり荒れた道を通っているためガッタンガッタンと音を立てながら激しく縦に揺れていた。


 馬車に乗ってる調査隊の様子は外から伺えないけど、あれ乗ってる人達は酔っちゃうだろうなとか思った。様子を見てたけど調査隊の一人の御者は不気味なぐらい無表情で揺れなんて関係ないって感じだった。


 しばらく進むと急に兵士達が立ち止まり兵士の一人が手を挙げた。止まれの合図だ。皆んな立ち止まり、警戒し、僕も馬から降りて背中に背負ったショートメイスを手に取った。


 兵士達の前にゴブリンが三体現れた。獣人親子と旅してた時に出会ったゴブリンと同じ種類みたいで、僕の方をじっと見ていたけど兵士達が順番にゴブリンと距離を詰めて難なく倒した。兵士達を鑑定したけど僕よりステータス値は高く、弱い魔物なら兵士達だけで十分対応できそうだ。


 その後もゴブリンを始め、フォレストウルフやホーンセーブルなど弱い魔物が何体か出てきたけど危なげなく兵士達は排除していった。


 「ふふ、ネール君も戦いたそうだねぇ」


 馬上のフロウから声をかけられたけど、確かにその通りで、弱い魔物ならちょっと戦ってみたいって思ってた。


 レベル上げになるっていうのもあるけど、それよりちゃんとした武器を手にしたのは初めてだから、試したいみたいなぁって気持ちが強かった。


 森の道を進むと少し開けた場所に出た。陽も暮れ掛けていたのでここで野営する事になった。森に入るまでの野営の時もそうだったけど兵士達や僕達は交代で夜の見回りを行い魔物の夜襲を警戒する。


 もちろん調査隊の人達が護衛対象なので彼等を中心に警戒を行うんだけど調査隊の人達は全員が一緒に馬車の中で過ごすので守り安いと兵士の人が言ってた。でもあの馬車ってそんなに大きくないから調査隊の人達が全員入るとめちゃくちゃ窮屈だと思う。ご飯食べてるとこもトイレに行ってるとこも見ていない。不思議だ。


 この日は僕の他に領軍の兵士二名と一緒に見回りを行った。兵士の人達とはちょくちょく話をしていた。どうやら今回の遠征に帯同している兵士の人達は領軍の平民出身者の中でも結構エリートらしい。


 今回の遠征がテストを兼ねている様で遠征から帰還すると昇進するそうで皆さん気合いが入ってるとか。領軍本隊も基本的には貴族が優先的に昇進するらしく、隊の上層部は皆貴族らしい。


 貴族だらけの騎士団にいる僕に対して、同情してくれたり激励してくれたりした。なんかすごく嬉しかった。サインスに来てから人の優しさに触れる事が少なかった。ここにいる兵士の人達は皆僕の事を心配してくれている様子だった。


 兵士の人達は皆、僕と同じく遠方から出稼ぎでサインスに来たそうだ。境遇の似た僕に兵士達は色々と助言をくれた。貴族との対応、といっても取り敢えず当たり障りなく対応し、極力関わらない様にする事が大事だって言ってた。


 他にも誰々には気をつけた方がいいとか、あの人は問題ないとか。他にもサインスの美味しい飲食店とかも教えてもらった。その中で気になる事があった。転職についてだ。


 「領軍には年に一度、武力を競う大会があってな。そこで優勝すれば神の啓示を軍の負担で行ってもらえるんだ」


 神の啓示ってのはゲーム内の教会でジョブの変更を行う際に司祭が転職の事を神の啓示と言っていた。どうやら世間一般ではジョブの変更、転職は神の啓示で通ってるみたいだ。大会って、僕でも出れるのかな?駄目らしい。


 ややこしいんだけど領軍の強化のため、軍が伯爵に稟議を通して予算を確保している様だ。で、どうやら騎士団と領軍には昔からライバル関係、というより領軍が騎士団を一方的にライバル視しているらしい。騎士団の騎士が参加して万が一優勝してしまったらその騎士を転職させなければならない。


 転職にはかなりの金額が必要になるので、それをライバルである騎士団の戦力増強に使われるのは無理!って考えていて、完全に内輪での大会になっている様だ。まぁ、僕が出た所で優勝は無理だろうしなぁ。

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