第91話

 鍛冶場で装備を揃えてから二日後。日が昇る前のまだ薄暗い早朝に自室を出た。今日から調査隊の護衛として遠征が始まる。


 目的地はサインスから北に一週間行った所にある小さな村だそうで、そこで三日間の滞在を予定している。サインスに戻ってくるのは二十日後ぐらいになりそうだ。


 宿舎の入り口前で遠征の面子は集合した。アドルとガルグ、それとフロウがいた。


 「今回の遠征にはあまり人を寄越せないからねぇ。体の空いてる僕が帯同する事になったのさ」


 僕を含めてこれで全員だと聞いて遠征に向かう騎士団の人数が少ない事に驚いた。最低でも後二、三人はいると思ってたのに。それに体が空いてるからってフロウがいる事にも驚いた。


 回復魔法が使える騎士団所属の看護担当は他に何人かいるのに、その看護担当の責任者がおいそれと小規模の遠征に帯同してもいいもんなんだろうか。


 「それじゃあ全員揃ったから出発しよう!」


 騎士団は各自の馬に乗って移動するので馬の手綱を引いて歩き、僕は自分の馬を持っていないのでガルグの後ろに乗っけてもらう事になった。


 この後は領軍本隊の兵士も数人程、今回の遠征に帯同するとの事で合流した。歩く兵士達と共に調査隊との合流地点である領都中心部、噴水のある広場に向かった。広場では、まだ日も登らない時間帯なのにちらほら街の人達が行き交っていた。


 ふと、冒険ギルドの建物が目につき、数ヶ月前の別れを思い出した。あの獣人親子は無事に王都に着いただろうか。


 「お待たせしました。マーウェル騎士団アドル・フィックと申します」


 獣人親子を想っているとアドルがある一団に声を掛けた。調査隊だろう五名だが、皆同じ装いで、金色の複雑な模様の刺繍が入った白いローブを着ていて、しかも全員がフードを深く被っていた。......調査隊?怪しさ満点なんですけど。


 「これは騎士団の皆様、并に兵士の皆様。この度は、宜しくお願い致します」




 name:ロバト・サラセン

 age:37

 job:奉教人(42/100)

 lv:24

 exp:560/426000

 skill:暗器術lv.3 短剣術lv.3 神聖魔法.lv2

 HP 84/84

 MP 59/59

 STR:42

 VIT:39

 INT:51

 RES:52

 AGI:19

 DEX:34




 一団を代表する形でアドルに話しかけた男を鑑定したんだけど、こいつらダグダ教の信徒やんけ。奉を冠するジョブ名はダグダ教徒しか付けないって設定がゲームにあった。まぁ、そもそも格好から、それっぽいんだけどね。


 ダグダ教とマーウェル伯爵との関係は良好な物ではないらしいと、以前騎士の一人に座学で歴史を教えてもらっていた時に聞いた。


 考え方の違いから伯爵が打ちだす施策に対して、これまでダグダ教がちょいちょい口出しをしてきたらしい。ダグダ教はエルドール王国で最も大きな宗教団体で王国内での影響力は大きく無視できない。伯爵にとっては目の上のたんこぶみたいな存在みたいだ。


 ダグダ教の方も、主に金銭面で自分達に不利益となる考え方を推し進めようとするシュフテン・マーウェル伯爵を煙たがってるそうな。


 アドルから事前に調査隊の人達の説明はなかった。ダグダ教の信徒がダンジョンの調査隊?ダグダ教とダンジョンの関係については特にゲーム内で示唆される事はなかったはず。怪しい、なんかめっちゃ怪しい。それに暗器術のスキル持ってるとか、絶対やばい奴やん。


 アドルは笑顔で対応してるけどそれ以外の、ガルグや領軍の兵士四名は、なんだか困惑した顔をしていた。


 多分僕と同じように調査隊については聞かされてなくて、更にその風貌でダグダ教の人間だとわかったからだと思う。フロウはいつも通り笑顔を貼り付けた表情だ。


 ゲームの中でマーウェル領内にはダンジョンは無かった筈だから、そもそもこの調査ってやつ自体が、きな臭い。


 色々と考えを巡らせていると出発する事になった。アドルの指示で領軍の兵士達が先頭に立って歩き、その後を馬に乗ったガルグと僕とフロウが、僕らの後ろが馬車に乗り込んだ調査隊の面々で、その後ろの殿にアドルという形で隊列を組んだ。目指す先となる場所はサインスより北に進んだ先にあるそうだ。


 北側は、しばらく行くと丘陵地帯となっていて北に進むにつれて緩やかな登り道になっているらしい。


 丘陵地帯の殆どが森に覆われていて道もちゃんと整備されていない所が多い様なので進み辛く、しかも常に魔物を警戒しないといけないから特に先頭で、しかも歩きの領軍の兵士達は大変だ。更に森に入ってから抜けるまで二日程かかるらしく、かなりしんどくなりそうだった。


 北側の門をくぐってサインスを出た。先頭が歩きなので馬や馬車で移動しているとはいえゆっくりだ。森に入るまではのんびりした旅路になりそうなんだけど馬の乗り心地は最悪だった。


 馬が悪いわけじゃなくて、ガルグの後ろに乗せてもらっているんだけどガルグが背中に背負っているゴツいハルバートが馬に揺れ僕の顔にぶつかりそうになって、微妙に鬱陶しい。


 訓練の時に使ってた木製の物と違って金属製で固そうだから、当たったら間違いなく痛いはず。皆んながゆっくりと進む中、僕だけそわそわしながら進んだ。

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