第90話
「どうだ?サイズは」
ちょっとだけ大きいですと答えると、すぐに身体はでかくなるからそれで大丈夫だろ、とロマニルから言われた。
「それじゃあ次は武器だな。坊主は剣以外に何か武器は使うのか?」
「剣以外にというか、剣の扱いは下手なんです」
普段は棒を使ってますと伝えると、変わった奴だなと言われた。
「ちょっと待ってろ」
さっきと同じようにずかずかと歩いて武器の並ぶ棚から武器を持って来た。受け渡されたのは僕の腕ぐらいの長さの鍔のない短い剣だった。鞘から抜いてみると刃の厚みは薄く軽い。鏡の様に光っていたけど銀色というよりはなんだか薄っすら黄色かった。
「そりゃブラスで出来た剣だ。丈夫で腐食しにくいが、はっきり言って切れん。磨いて見栄えを良くした、なまくらだ」
あくまで騎士っぽい見た目になる様にって事らしい。軽くするために刃を薄くしてるから丈夫とはいえ打撃武器として使っても直ぐに壊れちゃうとの事。
基本的に騎士は剣を主要な武器として普段から携えるけど遠征等では予備となる武器も必ず所持しているらしい。もちろん剣をメインの武器として使わない騎士も中にはいて、そういう場合は剣を予備として持っている必要があるらしい。剣は騎士の象徴だ、ってやつ。
「そんで棒って言ってたがどんな棒を使ってたんだ?」
普通の棍棒です、と答えると変わった奴だなぁとまた言いつつも棚からいくつかの武器を持って来た。
「坊主の体格で長物は遠征の邪魔になるから短いもんがいい。騎士で打撃系の武器と言ったらメイスだ。こんなかから選びな」
目の前に並べられたのは三本のメイスだ。メイスって棒術のスキルの対象になるんだろうか?三本ともあまり長くはないけど長さも形状も様々だった。取り敢えずそれぞれ手に持って重さを感じてみた。うーん、よくわからん。取り敢えず扱い安そうなのを鑑定してみた。
キュビトメイス
レア度D
チタン製の短い棒状の武器
「それにするか?そのショートメイスはお前が着けてる防具と同じ灰銀で作ってるやつだな。重さはあまりなくて威力はいまいちだが、軽くて扱いやすいし、防具と同じ素材だからまぁ見た目の統一感はあるわな」
ぶっちゃけどれがいいか全然分かんないから、防具と同じ素材だって言うんならその方がいいのかな?って訳で手に持ったメイスを選ぶ事にした。一応鑑定では棒状って出てるから棒術スキルの対象になるはずだろうし、多分。
てか伯父さんから貰った鉄の棒は結局一度も使ってないんだよなぁ。まぁ所々錆が乗ってる、ただの鉄の棒だから流石に騎士団の一員として持ち歩くのは見た目で却下されそうだ。でも伯父さんがくれた大切な物だからいつか使う時が来るまで大切にしまっとこう。
武器が決まった後、せっかくだからとアドルの提案で僕とアドルとで模擬戦をして、ショートメイスと防具の具合を確かめようということになった。
作業場の建物の横にある空き地に防具を付けたまま移動した。アドルはロマニルから木剣を借りて僕と対峙した。なんだなんだと野次馬が集まって来ていた。
「それじゃあ、いつでもかかっておいで」
余裕そうな表情を浮かべるアドルだけど、致し方なし。アドルの戦い振りはマチカネ村で十分見せてもらったし、ステータス値もそうだけどそれ以上の実力差がある事はアドルも僕も分かってる事だし。
取り敢えず間合いを詰めて片手に持つショートメイスを振り上げてアドルに打ちつけた。難なく木剣で受け止められたけど、なんだか面白い感覚だった。
続け様に振ると、今度は躱された。空振りしてより感じたけど、多分このメイスは先の方じゃなくて真ん中よりも少し手前側に重心があるようで振り抜けがいい感じだった。確かに威力は強く出そうにないけどその分連打しやすく、僕向きな感じがした。
しばらくアドルに攻撃を続けたけど、たまにアドルから木剣で防具の各部位を順番に叩かれた。アドルがあまり力を込めていないのもあるけど全然痛くない。防具ってやっぱ大事なんだなぁ。防具は少しサイズが大きいと思ったけど思ってたよりも動きの邪魔にならないし、軽いから身体への負担も少ないように感じた。
「どうだい?ネール。何か不具合があれば親方に遠慮なく言いなよ」
打ち合いを終了しアドルが僕に尋ねて来たので問題ないですと答えた。
「よし。それならその装備で決まりだね」
アドルはロマニルに僕の装備を購入する旨を伝えた。装備はそのまま持って帰れと言われたので分かりましたって言って防具を脱ごうとすると、そのまま着て帰れと言われた。いや、なんか、恥ずかしいしとか思ってロマニルを見ると僕の気持ちを察したのか、新しい装備ってのは早く慣れた方がいいんだからそのまま着て帰れと言われた。
「大体、防具脱いで持って帰るのは嵩張ってお前の小ちゃい手じゃ全部持てないだろうが」
それもそうかと思ってそのまま着て帰る事にした。アドルと一緒に騎士宿舎を目指してサインスの街中を歩いていると、妙にあっちこっちから視線を感じる。
宿舎から鍛冶場に向かう道のりも街の人達の視線を集めてたけど、それはアドルに対してで主に淑女の皆さんがアドルに釘付けになっていた。いや、まぁ、モテそうな顔してるもんね、この人。
行きはそう思ってたんだけど、帰り道はどうも僕に視線が集まっているようだ。ロマニルの所の兄ちゃんが僕の事が噂になってるって言ってた。騎士っぽい格好した子供が歩けば噂の農民の子供が僕だって気付かれて視線を送られている様だ。
頑張れよ!とか、応援してるぞ!とか言われた。なんかめっちゃ恥ずかしいんですけど。恥ずかしさで下を向きながら、僕の様子を見て笑うアドルと街を抜け、宿舎へ戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます