第94話

 森に入って二日目。特に問題なく予定通りに進めていた。出てくる魔物も一日目と同じで弱い個体が多く先頭を歩く兵士達が難なく排除していた。


 時折後方でアドルが一人で魔物と対峙している事があったけどそちらも何の問題もないみたいだった。


 何故か魔物は先頭の前か、後方の後ろからしか姿を現さず、隊列の真横の茂みから飛び出して来て急襲されるってのを警戒してたけど肩透かしをくらった感じになっていた。まぁ、たまたまって事もあるだろうから警戒は怠らない様にしよう。


 順調に進み、二日目の日暮れ前までには森を抜ける事が出来た。後は平原をひたすら進んで目的の村を目指すのみだった。


 森を抜けた所で野営を行い夜を過ごして次の日。早朝に出発し、平原を進んだ。平原って聞いていたけど、足を踏み入れ辺りを見渡すと、これ平原っていうより荒野って感じで、森の中の道程じゃないけど地面がでこぼこしていた。


 所々地面が濃い紫色に染まる場所が目につき、魔枯病の影響を受けている事が分かった。


 緩やかに上り坂みたいになってるし、あっちこっち地面が隆起していて崖みたいになってる所があって見晴らしは良くない。


 これ、歩きは大変だろうなと思ってガルグの背から顔を出して先頭を歩く兵士達を見ると心なしか歩きづらそうにしていた。


 後ろを振り返ると調査隊の馬車が森程じゃないけどガタガタと音を立てて揺れていて、相変わらず御者は無表情だった。


 今までの進行よりもゆっくりとなった隊が荒野を進んでいると、ガラガラと何かが崩れる音が前方から聞こえた。


 その瞬間兵士の一人が手を上げ隊を静止させたと思ったら、カンと乾いた音が聞こえた。兵士の一人に矢が放たれ、兵士の身に付けている防具がその矢を弾いた音だった。


 崩れる様な音がした方に視線を移すと、いかにも賊ですって感じの汚らしい見た目だけど、皮で出来ているような簡素な防具を身に纏った男が弓を構え、隆起した崖の上に立っていた。男の足元の崖が少し崩れて、またガラガラと音がした。


 なんかこの感じ前にもあったような気がするなぁとか思っていると、弓を構える男が立つ崖の麓から数人の男達がゾロゾロと姿を現した。全員崖の上の男と似たり寄ったりな格好をしていた。


 「賊だな。数は12か。ネール、馬から降りてくれ」


 ガルグに促され馬を降りると、ガルグは馬を走らせ、多勢の相手に少し躊躇していた兵士達の横を通り過ぎて賊に突っ込んでいった。


 背中に負うハルバートを片手に持ち、賊達の前で円を描くように馬を走らせ、走りざまにハルバートを振り付けると一振りで賊二人の首が飛び、乾いた地面に血の雨が降った。


 怯んだ賊を見て兵士達も距離を詰めて交戦を開始した。賊も抵抗するけど、そんなの関係ないって言わんばかりにバッタバッタと兵士達は賊を倒し、ガルグも馬を降りてハルバートで賊を突き上げていた。


 その光景にあっけにとられていたけど、崖の上の男を思い出しそっちに目線をやると、いつの間にか崖を登っていたアドルが一撃で男を真っ二つにしていて、真っ二つにした死体を崖の上から下へ放り投げた。



 「取り敢えず死体は一箇所に纏めて放置しよう」


 賊を全て倒し終え崖を降りたアドルは転がる死体を見て言い、それに従って兵士達とガルグと僕は死体をひきずり一箇所に固めた。


 ふと、視線を感じて振り返ると馬車の御者台に座ったままの御者と目があったけど変わらず無表情だった。


 「こんな所に賊がいるなんて可笑しいねぇ」


 人の住める場所じゃないのに彼等は何処に居を構えていたんだろうねぇ、と賊と揉み合った拍子に擦り傷を負った兵士を魔法で治療しながら、その貼り付けた笑顔を深めてフロウが口にした。


 「よし!それじゃあ先に進もうか」


 アドルの号令と共に皆んな何もなかったかのように隊列を組んで先へと歩を進めた。




 「これはこれは、皆様。お疲れ様でございます」


 賊に襲われてからは特に何か起こることもなく数日をかけて進み、丁度サインスを出発してから七日目の昼過ぎ、予定通り目的地である小さな村に到着した。


 到着するとすぐに村長らしき老人がやってきて声を掛けて来た。痩せ細り、生気のない姿だけどギラついた目が気持ち悪かった。


 「貴方がこの村の村長か?私はアドル・フィック、サインス伯爵騎士団の者だ。先触れはしていたと思うが、こちらに数日程滞在したい。問題ないか?」


 もちろんでございますと村長は頭を下げて僕らに宿泊してもらう家屋を準備しているので案内致しますと言ったけどアドルはその申し出を断っていた。


 断られた村長は困惑気味な表情をしていたけど、村の隅っこの場所を野営の為に借りることと水や食糧を融通してもらう事をアドルがお願いし、もちろんでございますと再度頭を下げた。


 小さな村だった。マチカネ村や獣人親子と旅する間に立ち寄った村と比べ、より見窄らしく人が生活している事を疑ってしまいたくなるほど寂れていて目につく建物もボロボロだった。


 たまに見かける村人達も襤褸を着てガリガリに痩せ細り生気を感じられないけど村長同様、皆目だけはギラついていた。

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