第87話

 領軍本隊に混じって訓練を行う日々を過ごした。初日こそガルグとの騎士見習い同士の手合わせになったけどそれ以降は、同じ演習場にいても別々に訓練を行なっていた。


 他の兵士達との手合わせを行うけど全く歯が立たずぶっ飛ばされてばかりだった。毎回訓練が終わると全身が痛い。


 ガルグの時もそうだったけど領軍本隊の兵士達も鑑定するとステータス値は僕より上だけど大きな差があるわけじゃない。たまに飛び抜けてステータス値が高い兵士もいたけど。


 だから手合わせの度に圧倒されるのが不思議だった。ステータスの数字では実際の強さは量れないってことなのかな?戦闘の熟練度の差かもしれない。あと、まぁ、考えられるとしたらジョブかなぁ、やっぱり。ステータスには現れていないけどジョブの違いはなんだか大きな影響がある気がする。


 

 ある日、馬の世話が終わり騎士宿舎の清掃として廊下の壁をウエスみたいなボロきれで拭いていると、どこからともなく怒声が聞こえてきた。どこかの部屋から漏れ出したのだろう聞き覚えのある女性の声。


 壁を拭きながら声のする方へ近づくと、声のする部屋の前に辿り着いた。ここって確か会議とかに使う部屋だってガルグが言ってたような気がする。部屋の扉付近の壁を拭きつつ耳を澄ますと、扉の奥から団長アティラの怒りの叫び声がしっかりと聞こえた。


 「ふざけるな、ゴーティ!私は認めんぞ!」


 部屋の中には、どうやらアティラの他にゴーティがいるみたいだ。


 「伯爵は一体何を考えているのだ。あんな事があってまだ数ヶ月しか経っていない。見習い共はまだひよっこだ。一人は農民の、しかもまだ子供だぞ?団長として許可できるわけがないだろ!」


 「農民の子、だからだ。私からの推薦があったとはいえ、ネールを騎士見習いに即取り立てる事になったのは領民へ伯爵からの表明に他ならない」


 「はっ!何が表明だ......変わったなゴーティ。昔のお前なら私と同じく反対したはずだ。そんなに娘の為に金が欲しいかっ!」


 「変わった、か。確かに私は昔の私ではない。大切な者達の為なら信念など無用だ。変わったのは貴様もだろう?アティラ。純真無垢な少女だったお前が、今は力のみを求める夜叉と成り果てた」


 「力が無ければ何も変わらない。私は変わったのではない。ただ、当たり前の事に気づいただけだ!」


 ......これ、何かよく分からないけど、聴いちゃまずい内容だよね?僕の事だと思うけど話に出て気になる部分はあったけど、これ以上聞いちゃ不味いと思って、部屋から足音を立てない様にそろりと離れた。


 「ネール、どうした?」


 「うひゃ!!!」


 急に背後から名前を呼ばれて変な声が出た。ガルグが後ろに佇んでいた。なんだガルグかよ、脅かさんといてよ!と思っていると、バン!と勢いよく扉が開き、そこには鬼の形相の団長アティラがいた。


 アティラと目が合う。鋭い視線が注がれ、ただそれだけの時間が数秒続いた。


 「丁度いい、話がある。二人共、部屋に入れ」


 アティラの背後からゴーティが僕らに投げかけた。それを聞いたアティラは顔をこれでもかと歪め振り返って、ゴーティに無言で反抗しているのがよく分かった。


 数秒置いてアティラは諦めたのか部屋に戻り、それに次いでガルグの後に僕も部屋に入った。

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