第88話
「ガルグ、ネール、君たち二人には数日後の調査隊遠征に帯同してもらう事になった」
ガルグと僕はゴーティの前に立ち、ゴーティからの説明を聞いた。アティラは腕組みしたまま無表情で窓の外を見ていた。
「調査対象についての詳細等については同じく帯同を予定しているアドル・フィックより後程、説明を頼んだ。何か質問があればアドルに聞くように。今回は騎士団の一員としての参加となる為、正装が必要となる。ガルグは実家から持ち込んだ武器があったな?」
「はい。前回の......半年前の遠征時に大きく破損しましたが昨日修復が終わり鍛冶屋より受け取っています」
「ネール、君には鎧と武器が必要になる。本日の訓練を中止し鍛冶屋へ行くように。アドルに案内させる」
畏まりましたと返事をした後、ガルグと一緒に部屋を出て宿舎の清掃の続きを行った。
その後、騎士団の演習場の整頓を終え食堂に向かう途中でアドルに声を掛けられた。昼食後に宿舎の会議室までくるように言われ、言葉に従い昼食後に狭い会議室に入ると既にアドルとガルグが待っていた。
「よし!じゃあ、ネールも来たことだし、まずは今回の遠征について説明するよ」
騎士団の遠征は定期的に行われているらしいけど遠征先や遠征の目的は都度まちまちみたいだ。マチカネ村にゴーティ以下騎士団の数名が木こり達を引き連れてやってきた事も騎士団の遠征の一つだったとの事。
本来騎士は忠誠を誓った主君に仕え、主君の剣と盾となる為に常に主君の近くに控えるものらしいけどマーウェル騎士団に於いては現伯爵シュフテン・マーウェルの方針で騎士は領主のみならず領主の治める領内に住む人々、つまり領民にも同じ様に仕えるべきだと主張したらしい。
その主張が言葉だけではない事を表す為、領内各地各所に起こる問題の対応に積極的に騎士団の派遣を指示する様になったそうだ。
周りの貴族や権力者からは怪訝な目を向けられたが領民からは多くの支持をうけたらしく、シュフテンが当主になってからずっと続いているとか。だけど今回の遠征は通常の物と趣が異なる様だ。
「というのも今回の遠征は調査隊の護衛になる。ここからは他言無用の話だけど調査隊の調査対象はマーウェル伯爵領内に出来たかも知れないダンジョンの調査なんだ」
ダンジョン!?ゴブリンと同じくファンタジーの定番!......て、ちょっと待てよ、ダンジョン?『デムナ戦記』でダンジョンは数箇所あったけどマーウェル伯爵領の付近には無かった、はず。
「で、だ。今回二人が調査隊の護衛に帯同する理由は君らへの訓練としてなんだ」
ダンジョンがあるであろう場所はサインスから一週間程行った所にある小さな村の付近だそうだ。騎士見習いが訓練として遠征を経験するのに近からず遠からずな距離で丁度いいって事で決まったらしい。
本当にそんな理由?宿舎の清掃の時に聞こえてきた団長と副団長の会話を思い出すとなんか引っかかる。なんか怪しい気がするけど、だからといって僕に拒否権なんてないし。
「あっ、そうだ。遠征中に給金の支給日になるから遠征に行く二人は前もって受け取れる筈だよ。必要であれば文官の詰所で貰っておくといいよ」
そっか、なら後で取りに行ってこよう。
「出発は明後日だから、今日明日で準備をしといてね。明日も昼からの訓練には参加しなくていいから。で、ネールは今日はこれから僕と一緒にサインスの鍛冶場に行って装備を揃えよう」
簡単な説明が終わった後、会議室を出た。アドルは急ぎの用があるらしくそれが終わってから僕と一緒に鍛冶場に行く事になった。
用事自体はそんなに時間はかからないらしく、用事が終わったら声かけるからしばらくしたら自室に待機しといてね、と言ってアドルは小走りでどこかに向かって行った。
時間が少しできたし、お金貰いに行こうかな。文官の詰所は騎士団宿舎から渡り廊下を渡る隣の建物だ。領内の事務的な事全般をここの文官達が行っているらしい。給金を貰うのは今回で三回目。事前の説明通り一月で金貨一枚の支給だった。
詰所に入り正面の小さなカウンターの前に座る男性に声をかけると素っ気ない返事が返ってきた。
相変わらずの塩対応だけどこれは僕に限った事じゃなくて他の人達にも素っ気ない態度をとってるのを何度か見かけた。
受付の人に金貨を受け取りそのままその金貨を商業ギルドを通して父ちゃんに半分送るよう手配をお願いし、もう半分は僕名義で預かって貰った。
ほんとにちゃんとお金が送られているか心配だったけど先月母ちゃんから手紙が届いてお金が間違いなく届いている事を手紙の内容で確認出来ていた。
手紙には色々と僕を心配してくれてる内容が書いてあったけどお金についてはどうやら怒っているようだった。自分で稼いだお金は自分の為に使いなさい、そう書かれていた。
母ちゃんの怒った時の鬼の様な顔が目に浮かんで、あんだけ怖かったのに今は凄く嬉しいし、なんだか目頭が熱くなった。
僕は元気です、心配しないで大丈夫!って内容とお金は自由に使って、って内容で手紙を送り返した。手紙を送るのだって安い訳じゃない。定期的に僕から手紙を送って少しでも心配させないようと決めた。
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