第86話

 訓練なので勝ち負けは関係ないけど、対峙するガルグの圧力には勝てる気がしなかった。ステータス値はガルグの方が上だけど差が大きく開いてるわけじゃないのに。


 ガルグが突きを見舞った。早いけどかわせない早さじゃなかったのでかわした。ガルグは突きを続け、その度にかわしていたけどだんだん突きが早くなって来たので手に持つ棍棒で払った。


 武器同士がぶつかった瞬間重く感じたけどなんとかガルグの武器を弾く事が出来た。ガルグは突きを続け、その度に弾いていたけどだんだん突きが重くなってきた。


 完全に防戦一方の状況になってしまった僕は辛うじてガルグの突きをかわしたり弾いたりしてしのいでいた。動き回る僕とは違ってガルグは殆どその場から動いていなかった。


 何度目かの突きを弾くと突きの重さに体が揺れ、体勢を崩した。すると今まで殆ど動いていなかったガルグはその長い足で一歩踏み出し僕との距離を詰め、同時に薙ぎ払った。


 ブンという風を切る音と共に僕の持っていた棒が払われたと思ったら、棍棒が短くなり、短くなった部分の一部がポトリと地面に落ちた。えっ!嘘でしょ!?


 びっくりしたのも束の間、気がつけば振りかぶり横薙ぎに払おうとするガルグの姿が。ぐえっ!肩を払われその勢いのまま、ぶっ飛ばされた。


 地面にゴロゴロと転がる体は近くで訓練していた兵士の足にぶつかって止まった。兵士は無言で僕を持ち上げ立たせてくれた。ありがとうございますと言うと兵士はうなづきで返してくれた。


 いてて、でも手加減してくれたっぽいな。肩を払われたのは武器の腹の部分だったみたいで、しかも当たる瞬間に力を抜いてくれたみたいで棍棒で受けた時ほどの重さはなかった。


 ガルグは無言でこちらを見ていた。僕は新しい棍棒を取りに行って戻り再びガルグと対峙し、訓練を再開した。



 訓練が終わって宿舎に戻ると通りすがりの騎士から服も体も砂だらけだから砂を落としてから入れと言われた。


 ガルグから何度もぶっ飛ばされて地面をたくさん転がされたせいで自分でも気づかない内に全身砂まみれになっていたようだ。転がされ続けて途中目が回って気持ち悪かった。


 宿舎の外にある井戸から水を汲んで裸になって頭から水を被った。冷たっ!井戸の水はめちゃくちゃ冷たかったけど、腫れた肩の痛みを和らげてくれた。何回も打たれて肩が腫れている。


 訓練が終わった後、ガルグから声をかけられフロウ様の所で診てもらえと言われた。服を振るって砂を落としてから着て医療室へ向かった。医療室の前まで来て扉のノブに手をかけようとした時、何やら部屋の中から扉越しに話し声が聞こえてきた。


 どうやら声の主はフロウとゴーティのようだ。内容はいまいちわからないけどなんだか重要な話をしてるっぽい。今入って行ったら邪魔かも。


 それに正直、副団長にもあんまり会いたくないんだよなぁ。と、扉を開けるのを躊躇してると「誰だ?」とゴーティが部屋の中から少し大きな声で間違いなく僕に向けて問いかけてきた。なんだか悪いことしてないのにドキッとした。


 騎士見習いのネールですと言って部屋に入ると椅子に座るフロウとゴーティの二人だけで、ゴーティはいつもの様に厳しそうな表情だったけどフロウまで珍しく真剣な表情だったのに驚いた。あちゃー、こりゃタイミングが悪かったみたいだ。よっぽど大事な話をしてたのかな。


 「やあ、ネール君。どうしたんだい?」


 訓練で腫れちゃったので来ましたと言うとフロウはいつもの笑顔を張り付けた様な表情をした。ならこっちにおいで、と言われたのでフロウの正面の椅子に座って腫れた肩を診てもらった。


 「ふむふむ、まぁ腫れは酷いけど見た目程じゃないね。よし、じゃあ魔法をかけてあげよう」


 魔法が掛けにくいからと肩をフロウの正面に向くように言われて体の向きを変えた。魔法がかかり始めたのか、なんだか肩が温かい。


 ......いや、なんか気づかないフリしようと思ったんだけど、さっきからゴーティが僕をめっちゃ見つめてくるんだけど。


 「......どうだ?訓練の方は」


 「はい、なんとか頑張っています」


 ゴーティが急に話しかけて来たのであたふたしながら答えると、そうか、と言ってまたじっと僕を見つめた。怖い、怖いんですけど。


 なんとも微妙な空気の中、早く治療終わらないかなって思っていたらゴーティが微笑んだ。


 「君が騎士になるのを待っているぞ」


 そう言って椅子から立ち上がり部屋から出て行った。急にどうしたんだろう。


 微笑み、声をかけたゴーティの雰囲気はマチカネ村で初めて会った時と同じ、厳しくも優しい物だった。

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