第85話

 昼食を取っていると珍しくガルグが声を掛けてきた。


 「アドルさんから領軍本隊の演習場に案内するよう頼まれた」


 宜しくお願いしますと頭を下げると、ガルグは無言でうなづいた。領軍本隊の演習場は伯爵の館より北西にある領都の防壁の先、領都の外にあった。


 だだっ広い平地に数百、いや千に届きそうなぐらいの数の人達がいた。皆、統一された銀と黒の二色でデザインされた鎧に身を包み各々が訓練を行なっていたけど視界に入る兵士達全てが洗練された動きをしている様に見え、あぁ、これが軍隊なんだって感じた。


 ガルグの後をついて行くと小さいけどしっかりとした作りの建物にたどり着いた。入り口には扉がなく、ガルグは入り口の前で失礼致しますと声を掛けてから建物に入り、続いて僕も入った。


 中はがらんとしていてあるのは長机と椅子が数個。椅子には三人、熟年に達しているであろう風貌の男達が座っていた。


 「失礼致します。騎士見習いネールを連れて参りました」


 ガルグの声を聞き三人の視線が僕に集まる。優しくも厳しい、三人ともそんな眼差しだと思った。


 「話は聞いている。私はマーウェル伯爵領軍指揮官ディアン・クーだ」


 「参謀長ヘイヘ・ナガンだ」


 「副官ウルリス・コンク」


 三人がそれぞれ名乗り、騎士見習いネールと申しますと頭を下げた。


 「当分はガルグと共に訓練に参加する様に。以上だ」


 畏まりました、失礼致しますとガルグが言い、それにならって頭を下げ、建物を出た。

ガルグも領軍本隊に混じって訓練を行っているらしい。


 有事以外の日常では領軍本隊の兵士達の仕事は広い領都の治安維持の為の警ら警備が主だそうだ。。兵士達は交代で業務を行い休日と仕事以外の日は訓練参加が課せられていて演習場では毎日訓練が行われているそうだ。


 訓練は一日中行われ、前半は中隊規模以上を編成しての集団戦闘訓練、後半は小隊規模に分かれて個人戦闘訓練を行なっているそうだ。騎士見習いの僕らが参加するのは後半の個人戦闘訓練になる。


 小隊の規模は一小隊につき大体五、六人で編成される。訓練の場合は演習場に集まった順で組まれる様で適当だった。


 僕もガルグも同じタイミングで演習場に入った為、二人とも同じ小隊で訓練する事になった。内容については基本的に小隊内での模擬戦闘を繰り返すという事だった。


 と、いうことはガルグとの手合わせがあるって事か。僕らは演習場の隅っこにある屋根と棚だけの、しかしかなり大きく長い棚にずらりと並べられた沢山の様々な種類の武器の中から訓練で使用する木製武器が並べられている場所で、それぞれ訓練で使う武器を手に取った。


 僕は取り敢えず棍棒を手にしたんだけど、ガルグを見るとなんかめっちゃゴツい奴を手にしていた。槍に斧がくっついた様な形状の、多分あれってハルバードってやつだよな。いかつすぎでしょ。兵士達の中にそんな武器を使って訓練している人は見当たらない。


 騎士見習いの先輩との手合わせってなんか緊張するなぁ、しかも武器がアレだし、とか思っていると、どっかしらか聴こえて来た、訓練開始の号令が叫ばれた事に気が付くといきなりガルグと手合わせする事になってしまった。


 皆お揃いの鎧を身につけている中、普段着の僕とガルグの対峙は目立っていそうだ。なんだか周りから見られている様な、そうでもない様な。


 対峙するガルグは僕に武器を向けた。ただでさえ背の高いガルグがゴツいハルバードを構えた時の圧力は半端なかった。

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