第65話

 僕たち、というより、サーロスとチャイカの子供達の戦いは呆気なく決着がついた。


 サーロスは襲いかかってくる三人の男達を一人ずつ一撃でぶった斬り、剣を三振りしただけで全滅させてしまった。人間の体が真っ二つになる光景なんて初めて見たよ。この人、つえぇわ。


 前世で人の死に目に会う事は数度あった。その都度、悲しくなったり、寂しくなったり虚しくなったり、色んな事を思ったけど目の前に転がる幾つかの死体に目をやっても不思議なくらい感情が湧いてこない。


 地面には帯びただしい量の血が流れ、切られた死体からは臓物がはみ出している。現実感が無いのだろうか。それらは作り物ようにしか見えなかった。


 「メルル、ネール、怪我はないか?」


 僕もメルルも大丈夫だと返事をすると建物の中を確認してくるからそのままそこに居てくれと言い、サーロスは建物の扉の先の暗闇に慎重に入っていった。


 いつの間にか僕にしがみついていたメルルの頭を撫で大丈夫だよと伝えた。サーロスはすぐに険しい表情をしながら建物から出てきた。


 「取り敢えずセンテに戻ろう」


 ここでの現状を冒険者ギルドに報告し対処してもらう必要があるからとメルルを抱きかかえた。


 僕らは急ぎ足で町へ向かった。サーロスからは建物の中がどうなっていたのかの話はなかったけどサーロスの表情から、あまりよろしい状況ではなかったようだと感じた。




 センテに着いたのはかなり夜遅い時間になった。途中で雨は止んだけどぬかるんだ道が歩きづらく随分と時間がかかってしまった。町の入り口前には夜警の警備兵が一人いたけど随分こちらを訝しんでいる様子だった。


 サーロスが冒険者のギルドカードを見せナチェス河で起こった事を説明すると焦った様子で他の兵士を呼びにいった。


 警備兵はすぐに他の兵士を連れ立って戻り連れてきた兵士に警備を指示した後、僕らと共に町に入り冒険者ギルドへ向かった。


 冒険者ギルドは基本二十四時間開いているそうだ。冒険者ギルドの受付は日が沈んでしばらくすると閉めるらしいけどギルド内にある食堂が酒場として営業する為建物は出入り出来るみたい。


 ギルドの収益の為や、冒険者同士の情報交換の場所・機会の提供、緊急時の対応などの理由が酒場を営業する理由らしい。


 センテの町の小さなギルドに近づくにつれ、夜遅いにも関わらずその一角だけ騒がしい様子が分かった。


 冒険者ギルドに着くと入り口前で酔い潰れて地面に転がる冒険者っぽいおっさん達を踏まないように気をつけながらギルドへ入った。


 一緒だった警備兵が先ず緊急事態である事をウェイトレスだろうか若い女性に声を掛けた。しばらく待つと女性はギルド職員を連れてきた。明らかに寝てましたって顔をしてたけど警備兵が話しかけ、サーロスが詳しく説明すると眠気は覚めて代わりに青褪めていた。


 ギルド職員に詳しく説明するサーロスの横で話を聞いていたけどチャイカの子供達がいた建物の中には多分漁師たちであろう複数の死体があったようだ。やっぱりなぁ。


 ギルド職員は急ぎ町長を通してダンスンザのブリージャー子爵への報告と今後の方針を仰がないといけないと言い、僕ら当事者についてはしばらく町に滞在して欲しい旨を伝えてきた。


 結局その後センテの町には十日程滞在する事になってしまった。


 数日町に待機したのち、ブリージャー子爵の使いが町に来て出頭命令っぽいのを受けた。


 冒険者ギルドの奥、事務所の様な部屋の一角に呼び出され、そこで取り調べ的なのを受けながら調書みたいなのを取られた。


 その後、実況見分に似たような感じで、ブリージャー子爵の使いと共に現地に赴き説明をする等をさせられているうちにさらに数日がたち気が付けば十日が過ぎていた。


 僕らを不審者として、実は僕らが漁師達を殺害したのではないかと疑われている感が半端無かったけど旅の目的を聞かれた際、説明と併せてゴーティから受け取った開封済みの封書から推薦状を取り出して見せた。


 そこにある印章の印に驚いたようで、すんなりこちらの主張を信じてくれた。ほんま権力ってゆーのわ......。


 ついつい前世の方言が出てしまう程、呆れるというか、ゲームの世界だろうがなんだろうが人間が作る社会はつくづく権力に弱いんだなぁと思った。

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