第66話

 ナチェス河での出来事があって、センテの町に滞在してから十日過ぎ。ようやく出発出来る事になった。


 その間の滞在費は冒険者ギルドを通してブリージャー子爵が負担してくれる事になったので良かったんだけど随分予定が遅れてしまった。仕方ないんだけどね。


 「漁場から河を渡る為の舟と人員はこちらで用意しています。漁場にいるギルド職員に声を掛けて下さい」


 漁場と言うのはチャイカの子供達と出会した集落の事でセンテの町の人達は皆んなそう呼んでるそうだ。


 今その漁場には数人の兵士達と冒険者ギルドの職員、冒険者が集まっている。兵士達はダンスンザからやってきたブリージャー子爵の私兵で、今回の出来事の詳しい調査の為に集まっている。


 どうやら僕らがチャイカの子供達に出会した漁場では滞在する人達全員分の死体が見つかり、向こう岸の集落でも漁師と宿泊施設の人達が全て殺されていた様だ。


 冒険者ギルドの職員や冒険者達は子爵より依頼を受けて兵士達の補佐やナチェス河を行き来したい人がいれば舟を動かすためにしばらく集落に滞在するようだ。



 センテの町を出発しナチェス河の漁場に到着した。天気も良くて穏やかな気候、河のゆったりとした流れが長閑な雰囲気を醸し出し、辺りは穏やかな空気に包まれているように感じた。


 過去に何があったとか誰がどうなったとか、世界には関係ないと言わんばかりだ。


 漁場には兵士達や冒険者達の姿があったけど冒険者ギルドの職員をすぐに見つける事が出来た。声をかけ、すんなりと舟に乗せてもらった。


 ゆったりと向こう岸まで小舟は進む。心地よい舟の揺れが眠気を誘い、ふと見るとメルルとサーロスの二人がうつらうつらしていた。


 無意識の行動や姿ってのは血の繋がりを感じさせるなぁ。獣人親子のうとうとする姿にほっこりしながら舟の向かう先を見つめた。




 河幅は広く、時間はかかったけど、河の流れは穏やかで特に問題なく舟で渡り切ることが出来た。舟を降りるとそこにも兵士や冒険者の姿がちらほらあった。


 陽も落ちかけていたので、どこかで野営しようと思って漁場の隅辺りの開けた所で準備していると冒険者達に声をかけられ、一緒に野営しないかと誘われた。


 皆んなで食事を作って食べながら話をしたりしてその夜を過ごした。兵士達が死んだ漁師達が住んでいた建物で寝泊まりしているらしいので冒険者達は建物を利用出来ず外で寝泊まりしているそうだ。


 一夜明け早朝、一緒に過ごした冒険者達に挨拶してから漁場を出発した。目指す先には大きな山と麓から伸びる森の姿があった。


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