第53話

 伯父さんとの旅はとても順調だった。


 伯父さんがダンスンザに行き来する際は殆ど一人旅だった様で今回みたいに一緒に旅してくれる人がいてくれると楽しいと僕に言ってくれた。


 道中は時間が沢山あるので色々と伯父さんが話をしてくれた。


 向かっているダンスンザの街の様子やマーウェル領、王都の話、伯父さんと伯母さんの馴れ初めとか、商売の事とか。


 その話の中で僕らの住むエルドール王国の隣国、ラフカディオ帝国についての話は興味を惹いた。主人公の生まれ故郷だ。


 「知り合いの商人に聞いたのだけど、ムラサキ病がかなり広がっている様でかなりまずい状況みたいだよ」


 ラフカディオ帝国の成り立ちなんかはゲームのストーリーに関係する事が多いので覚えていて、叔父さんが話してくれた内容と相違なかった。


 それよりも魔枯病の被害についての話が気になった。


 以前マチカネ村に来た文官が言っていたように魔枯病はラフカディオ帝国全土に広がり国の食糧不足にかなり影響を与えているそうだ。


 ラフカディオ帝国とエルドール王国は国交を結んでいるので王国が備蓄している食糧の一部を帝国へ支援する動きがある様だ。


 それとは別に帝国の食糧物価が食糧不足により上昇している状況を商機と捉え王国から食糧を担いで帝国に渡る商人も出始めているそうだ。


 あと数年経てば主人公にとって残酷な転機が訪れるはず。それはすなわちシナリオの始まりであり、そのシナリオの先に僕達家族の農家としての幸せがある。


 主人公には悪いけど残酷な運命に負ける事なく頑張って欲しい。




 数日して平原を通り過ぎ背の低い山を幾つか越えて、ノーザンの街を出てから初めての村にたどり着いた。


 村では水と食糧の補充を行いすぐに村を離れて次の村を目指した。それから村や町を幾つか経由したのち二週間の旅路が終わりに差し掛かっていた。


 「ネール君!あれがダンスンザの街だよ!」


 叔父さんが指差す数キロ先に壁が見て取れた。ダンスンザの街を囲む防壁の様だが、かなり大きそうだ。


 街に近づくにつれ行き交う人達の姿が次第に増えてきた。一言で言うと馬鹿でかい。


 僕は目の前の石造りの防壁を見上げその大きさに驚いた。高さは15m程あるだろうか。均一に切り出したであろう石を沢山組み合わせ積み上げていて、かなりの頑丈さであろうその壁の壮大さに感動してしまった。前世でもこんな建造物は見た事が無い。実にファンタジーだ。


 街には幾つか出入り口がありその全てに検問が敷かれ街の警備兵にチェックされているそうだ。


 貴族専用の出入り口もある様でそこ以外であればどこからでも出入り可能との事で伯父さんは一番近い出入り口へ向かった。何人かの検閲を待つ人達が並んでいる列の後ろに荷馬車ごと並んだ。


 僕らの番になり伯父さんが警備兵に商会ギルド発行の身分証を渡した。僕みたいな小さい子供は同行者の身分に問題なければ身分証がなくても入れる様だ。


 出入り口を通り街の中へ。大きな通りには多くの人が行き交い喧騒に溢れ活気があった。壁の外からは分からなかったけど街は随分広い様で防壁は街を円形に囲んでいる様だったけど向こう側の防壁の姿が随分先に見えた。


 「どうだい?ネール君。初めてのダンスンザの街は」


 「思っていた以上に大きくてびっくりしたよ」


 サインスはもっと大きいから向こうに着いたらもっと驚くよと笑いながら伯父さんは言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る