第54話

 ダンスンザの街並みは凄く綺麗だった。建物自体は古めかしく歴史を感じさせる物が多かったけど街の建設時に区画をしっかりと決め計画的に建てたのか、街全体の建物全てが均一に並び立っていて壮観だった。


 人がいっぱいいるなぁ。


 いつも以上にゆっくりのスピードで、行き交う人達を掻き分けながら進む荷馬車からキョロキョロ辺りを見渡していると、頭に何やらケモノの耳がついてる人達が目についた。


 おぉ!獣人だ!よく見ると尻尾も付いてる。いかつい顔をしてる人もいるけど、なんだか可愛く思えちゃうな。


 ゲームには様々な種族の人間がいたのでこの世界に獣人がいることは何となく分かっていたけど、人種以外の種族はマチカネ村にはいなかったし、ノーザンからダンスンザまでの間の村や町でも見かけなかった。


 ゲームでは獣人だけの国ガルバウトがあり、殆どの獣人はガルバウトに住んでいた。ガルバウトを出る獣人は冒険者だったり出稼ぎだったりが多く、しかし皆んな最終的にはガルバウトに帰るようだ。


 伯父さんに聞いても同じ様に言っていた。獣人は愛国心が強いらしい。ちなみに獣人国ガルバウトは『デムナ戦記』の続編、『デムナ戦記2』の舞台となり主人公も獣人だ。



 しばらく街の大通りを進み街の中央手前で伯父さんが荷馬車を停めた。


 「よし!到着だ。数日はこの宿屋に泊まるよ。荷馬車置き場を借りてくるからネール君はそのまま待っていて」


 伯父さんは御者台から降りて目の前の建物の扉を開け奥に入っていった。


 その建物は3階建てで正面から見ると他の建物より小さいけどどうやら奥に向かって建物が広がっていて結構大きい建物の様だ。扉上に宙吊りの看板がかかっていて、【宿屋・宵闇亭】と書かれていた。


 伯父さんはすぐに戻ってきて荷馬車を宿屋の裏側に移動させ先程とは別の入口から伯父さんについて僕も建物の中へ入った。宿屋の外壁は石造りだったけど中は木造で結構広い。


 ゲーム内において宿屋はただの宿泊施設ではなく一泊すれば体力全快、状態異常だろうがなんだろうが治っちゃう不思議な施設だった。


 まぁ、現実となった今そんな訳ないと思いつつも伯父さんに尋ねてみたが何言ってんだこいつみたいな顔されて、宿屋にそんな力があったら大儲け出来るねって言われた。


 ゲーム序盤では特に宿屋の利用頻度は高く、各町にも必ず存在していたけど宿屋の内装デザインはどこも似たり寄ったりだった。


 ここの宿屋も例に漏れず、一階が食堂兼受付、二階三階が客室になっていて、ゲームで見た宿屋と内装のデザインが同じだった。


 伯父さんが宿泊の手続きをしてくれたのだけど受付のおっさんと随分楽しそうに話していた。


 おっさんはこの宿屋の店主らしいけど伯父さんとは古い友人らしい。伯父さんが商売でダンスンザに来る際は必ずここの宿屋を利用しているそうだけど毎回、旧知のよしみで破格の料金で利用させてもらっているそうだ。


 しかも今回は繁忙期を過ぎて客室に余裕があるからと僕の分は無料で一室を用意してくれる事になった。


 ダンスンザの街に入ったのが丁度お昼過ぎだったので伯父さんと一緒に宿屋の食堂で昼食を取った。


 食堂にメニューはなく、日替わりで料理が出てくるそうだ。昼食は蒸し魚とスープとパンだった。味は薄かったけどボリュームがあってお腹一杯になった。


 昼食を取りながら伯父さんと今後の予定を確認した。


 今回、伯父さんがダンスンザに滞在する期間は一週間を予定している。主にその一週間はダンスンザにある複数の取引先との取引に充てる予定だそうだが、その各取引先にマーウェル伯爵領都サインスまで僕が同行できる機会を持っていないかの確認と相談をしてくれる予定になっている。


 取引先の都合によってはすぐに出発するって事になる可能性も充分あるから明後日以降、僕はいつでもサインスへ向かえるよう準備をしつつ、ひたすら伯父さんからの連絡を待つ事になる。


 明後日以降というのは、明日は伯父さんと一緒に商業ギルドへ行く予定となっている。


 僕の身分証の発行をお願いするためだ。


 商業ギルドではギルド加盟者が身元を保障するのを条件に身分証の発行を行なっているそうだ。


 身分証が必要な理由については、もし伯父さんの滞在期間中にサインスまで同行させてもらえる相手先が見つからなかった場合、冒険者ギルドに依頼して冒険者を護衛に付けサインスまで行く予定だ。


 冒険者ギルドのギルドカードも身分証にはなるけど商業ギルドの物と比べて信用度は低い。冒険者のギルドカードは少ない手数料を払い簡単な試験に受かれば誰でも手に入る為だ。


 もちろん高ランク冒険者のギルドカードであれば話は変わって来るけど、平民が雇えるクラスの冒険者となると商業ギルドの身分証の方が信用度が高い場合が多い様だ。


 マーウェル伯爵領都サインスはダンスンザより警備が厳しく領都に入る際、入口で門前払いされない為にも信用度の高い身分証を持っておくべきだと伯父さんからの提案があり、商業ギルドで身分証を発行する予定となった。


 それともうひとつ商業ギルドには役割があって、お金の貯蓄とギルド登録者間の口座送金が出来る事だ。伯父に仕送りについて相談した際教えてくれた。


 正直ゲームでは所持する金額に上限が無いため預けるメリットが全くなかったし、送金なんてシステムがあるなんて描写はゲーム内ではなかったと思う。


 まぁ、ゲームで主人公が送金をする相手なんかいないないだろからね。一体どうやって送金しているのか謎だけどこれを利用すれば簡単に仕送りが出来るから助かる。


 父ちゃんも伯父さんに身分を保証してもらい商業ギルドの身分証を持っているそうだからそこに送金できる。

 


 冒険者に依頼する事になった場合の依頼料は伯父さんが肩代わりし、父ちゃんと母ちゃんが叔父さんに支払う事になっている。


 僕は一人で行くつもりだったんだけど父ちゃんと母ちゃんがそれには強く反対した。


 冒険者を雇う場合の依頼料の相場を僕は知らないけどダンスンザからサインスまでは約一ヶ月かかり、その間冒険者を護衛として拘束するのだから依頼料は決して安くはないはずだ。


 父ちゃんも母ちゃんもお金をあまり持っておらず伯父さんに借金をする形になる。


 だけど父ちゃんも母ちゃんもこの条件は譲れない、一人で行くなら家を出ることを許可しないと言った。迷惑かけたくない。


 でも、二人が僕を心配してくれている事が痛いくらい伝わってきて、二人の想いに甘える事になった。伯父さんにも随分と迷惑を掛けている。いつか必ず恩返ししたい。


 

 昼食を終えた後、伯父さんは街の友人に会いに行くと言って宿屋を出た。一緒について来るかい?と声を掛けてもらったけどそれを断り部屋で休む事にした。


 部屋に入り部屋に備え付けの簡素なベットに横になった。


 まだまだ領都までは長い。サインスまで無事に着けるだろうか?騎士団に入団して上手くやっていけるだろうか?父ちゃんや母ちゃん、お世話になった人達の為にちゃんと恩返し出来るだろうか?


 ノーザンの町を出てから漠然と湧き上がっては、その都度意識しない様にしていた不安な気持ちがまた、湧き上がってきた。


 そんな湧き上がる気持ちに蓋をする様に目を閉じ、身体の疲れが自然と眠りに誘った。

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