第49話

 マーウェル騎士団入団の許可を父ちゃん母ちゃんから貰った数日後、マチカネ村を離れノーザンの町へ家族三人で移動する事となった。


 出発の際は村の殆どの人が見送ってくれた。父ちゃん母ちゃんが村の皆んなから好かれていたのがよく分かりなんか誇らしかった。


 僕らの畑については魔枯病の影響を受けてない部分は村長さんが管理してくれる事になった。


 マチカネ村を離れるのは寂しいけどいつか必ず戻って農家として一生を全うしてやると決心した。


 マチカネ村からノーザンの町までは歩いて半日程の距離だ。何げに村を出るのは初めてだし、町に行くのも初めてで楽しみもあったけどノーザンの町に着いて数日過ごした後、マーウェル伯爵領の領都を目指して出発する予定の為、ノーザンの町に近づくに連れ父ちゃん母ちゃんと離れる日が近づくという事だったので時間が経つにつれ寂しさが増していった。


 ノーザンの町までの道のりは平坦で森からも離れている為、安心して進む事が出来た。


 道中は父ちゃんや母ちゃんから二人が知っている旅の知識なんかを聞かされたり、それに対して僕から質問したりしながら歩いた。


 父ちゃんも母ちゃんも僕を心配しているのがよく分かり、少しでも僕の為になるように必死になって色々な知識を思い出そうとしている様が感じ取れた。


 早朝にマチカネ村を出発してからノーザンの町にはお昼過ぎに到着した。


 初めて見る街の姿は石垣の様な不揃いの石を積み上げただけの塀に囲まれていた。


 塀の高さは大体2m程で高さもそれほどなく、塀の石には苔が生えていてかなり古そうだった。


 町の入り口には簡素な武装をした兵士がいて町の出入りをする人の窓口になっていた。


 町に入る際は通常であれば身分証の提示が必要な様だが父ちゃんは兵士と顔見知りらしく軽く雑談をした後で町に入れた。


 広い一本の道の両サイドにはマチカネ村では見られなかった二階建ての建物が並び道には疎に人通りがあった。


 しばらくその道をまっすぐ進み町の中央辺りの建物の前で父ちゃんと母ちゃんが立ち止まった。


 「ここが私の兄さん、あんたの伯父さんのお店だよ」


 その建物は隣接する二階建ての建物と同じく二階建てで、木製の簡素なドアが付いていてかなり年季の入っている雰囲気の石造りの建物だった。


 母ちゃんがドアを開けて中に入り続けて父ちゃんと僕が中に入った。


 お店の中にはいくつかの木製の棚が設置してあり鍋やら農具や用途不明の何か等色々と並んでいた。


 奥には小さなカウンターがありそこには恰幅のいい中年の男性が座っていて、こちらに気がつくと立ち上がった。


 「ミュリーネ、ダグ、よく来たな!それと君がネールだね?初めまして。君の伯父さんのジュンクだよ」


 伯父さんは人の良さそうな顔に笑顔を浮かべた。どことなく母ちゃんに似ていた。僕も初めましてと挨拶をして、その後に奥の部屋に案内され伯父さんの奥さん、僕の伯母さんにあたる人を紹介してくれた。伯母さんも優しそうな人だった。


 その後すぐに伯母さんが用意してくれていた食事を勧められ皆んなで昼食となった。


 「それにしても大変な事になってしまったな。まさかムラサキ病が起こるなんて。ダグの親父さんはさぞかし天国で悔しがっているだろうな。大変な時に助け会うのが家族なんだからダグもミュリーネもネール君も遠慮せずここを自分の家だと思ってくれ」


 伯母さんも伯父さんに同意する様に頷いた。


 「兄さん、ネールの事なんだけど、実は数日後にノーザンを発って伯爵領に向かう事になったのよ」


 母ちゃんは伯父さんと伯母さんに僕がマーウェル伯爵領で騎士団に入る予定であることを説明した。


 二人とも驚いていたけど特に僕がゴーティに推薦状を貰った事に凄く驚いていた。


 「私の商いは本当に小さな規模で、それでも貴族様方との付き合いは少しだけあって、その中で多少なりとも貴族様方の情報は耳にするのだけど今のマーウェル伯爵様はすこぶる評判がいいようだ」


 伯父さんは現在の伯爵領領主であるシュフテン・マーウェルについて知っている事を話してくれた。


 善政を敷き、領民からの信頼が厚く、また非常に切れモノで他の貴族達からも一目置かれている存在らしい。


 シュフテンが領主となってからマーウェル伯爵領は著しく発展しているそうだ。


 「ネール君が推薦をもらったゴーティ・ダキタヌ副団長も有名な人だよ。ダキタヌ家は代々武門の家系で僕らが住むエルドール王国の中でも一二を争う名門だよ。その中でも副団長の強さは歴代で最強って話だ。次男だから家督を継げずに冒険者になったそうだけどその時にある街を襲った魔物の大群を他の冒険者達と一緒に退治してその中でも一番の働きをした活躍が認められて騎士団に引き抜かれたそうだよ」


 そんな人に推薦してもらえるなんて凄いじゃないかと伯父さんは僕を讃えてくれた。副団長って有名な人だったんだなぁ。


 てか、街を魔物の大群が襲うなんて事、やっぱりあるんだな。ゲームの設定では基本魔物は森から出ない事になっていたし、実際に湖周辺で魔物と戦っていた際はその設定通り森以外で魔物見かける事はほぼ無かった。


 だけどゲームを進行していくと途中からそんな設定なかったかのようにあっちこっちで出現する様になる。今後は森以外の所でも魔物の出現に警戒しとかないといけないな。


 伯父さんの話を聞く限りマーウェル伯爵も副団長も悪い人じゃなさそうだと父ちゃんも母ちゃんも少し安心したみたいだった。

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