第48話

 数ヶ月前にマチカネ村に来訪したマーウェル騎士団。その騎士団を率いていた副団長ゴーティは僕に騎士見習いとして騎士団に所属する事を打診してきた。


 その際説明のあった内容に相違がなければ騎士見習いとして働ければ月に金貨一枚を貰える。金貨一枚あれば家族三人が二ヶ月程暮らす事ができる。


 騎士見習いは寮生活で食事付きとの説明だったので僕自身の生活費は不要で月の給金を父ちゃん母ちゃんへの仕送りと魔枯病が治った後の農作業再開時に必要な生活費等に充てる費用を充分に貯蓄していく事が出来る。


 前世では父子家庭だった僕は父に親孝行らしい事は何も出来なかった。その分父ちゃんや母ちゃんの為に生きたい。


 それに僕自身がマチカネ村での、農民としての生活にとても幸せを感じていた。


 その生活を取り戻す為の準備でもあり自分のためにも騎士見習いとしてお金を稼ぎたいと思った。


 父ちゃんと母ちゃんがノーザンの町に居る伯父さんの所へ身を寄せる事を決め、父ちゃんと母ちゃんの二人で伯父さんの所へ一度挨拶に行く事になり、僕は村長さんの所へ預けられた。


 僕一人だと森に行ってしまうかもしれないと心配して村長さんにお目付役をお願いした形だ。父ちゃん達が帰ってくる間、村長さんの畑仕事を手伝った。


 村長さんの畑も魔枯病の影響を一部受けていたけど生活に支障が出る程の被害ではなかった。やっぱり僕は農家の息子なんだなぁ。農作業楽しいなぁ。


 久しぶりの畑仕事で汗をかき、改めて自分が農家を継ぎたいっていう気持ちを再確認した。


 早朝に村を出た父ちゃんと母ちゃんは夕方には村へ戻ってきた。話を聞くと伯父さんの家族は僕達を快く迎えてくれる様子との事だった。


 遅くなった夕食後、父ちゃんと母ちゃんに話があると声を掛けた。


 「父ちゃん、母ちゃん。僕、マーウェル伯爵領に行こうと思うんだ」


 突拍子のない僕の話に二人は困惑した表情を浮かべたけど二人が何か言う前にゴーティにもらった封書、騎士見習いの推薦状を二人に見せて話を続けた。


 「その封書の中にはマーウェル騎士団の見習いに僕を推薦してくれる内容の手紙が入ってるんだ」


 数ヶ月前にあったゴーティとのやりとりを説明した。説明を聞いて驚いた二人は封書の中身を読んで更に驚いていた。


 手紙には僕を騎士団見習いとして騎士団入団を推薦をする内容とゴーティの実家、ダキタヌ子爵家の印章による印が押されていた。


 貴族の持つ印章とは魔法により作られた高価で貴重なものでその印章で印を押せば印に魔力が宿る。


 印が押されたものは間違いなくその貴族が保証するといった証となり、騎士見習いの推薦状は間違いないものだという証明だった。


 ゲームではメインストーリーに印章を巡ってトラブルが起こりそれを解決するイベントがあったので僕はこの世界の印章の効果について知っていた。


 貴族の印章については父ちゃんも母ちゃんも若い頃学校に通っており貴族の持つ印章についてもそこで学び、理解していた。


 「僕は騎士になりたいんだ」


 別に騎士になりたいわけじゃない。だけど僕が今まで訓練で棒を剣に見立てて素振りしたりしていた姿を父ちゃんも母ちゃんも見ていてどうやら二人の中では僕が騎士や兵士に憧れを持っている様に捉えられていたようだった。


 家族の為といえば心優しい二人は反対するだろうけど僕の夢の為となれば騎士団に見習いとして入る事を許してくれると思った。


 農民が貴族から騎士団入りの推薦を貰えるなんて滅多にない貴重な機会だ。


 父ちゃんも母ちゃんもそれが分かっているし、僕が夢を叶えられる可能性があるなら応援したいけど騎士という仕事は戦う事が義務付けられる。我が子が命の危険がある道に進む事への心配もあり悩んでいる様子だった。


 その晩、悩む父ちゃん母ちゃんに騎士団に入りたい気持ちを夜遅くまで熱弁し続け、結果二人から騎士団入りの許可を得る事が出来た。

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