第47話
父ちゃんや母ちゃんは色々と試行錯誤し、魔枯病の影響を受けていない畑で農作物を育てようと奮闘したが魔枯病にかかっていない畑は殆どなくそこからの収穫は雀の涙だった。
村の人達の協力で多少の食料を融通してくれる事になったけど村人達に頭を下げて回る父ちゃんと母ちゃんの姿を見て切なく、悲しかった。
いつも明るく笑顔を絶やさなかった二人も徐々に元気を失っていき裕福ではなかったけど幸せだった生活が壊れていくのが分かった。
僕は森の中にいた。悔しさをぶつける様にホーンセーブルを沢山狩った。そして複数のホーンセーブルを紐でまとめて結んで担ぎ、家に帰った。
「父ちゃん、母ちゃん、ただいま」
「おかえりネール。......!?」
母ちゃんと父ちゃんは僕が背負っている沢山のホーンセーブルに驚いた様子だった。
「ど、どうしたんだ?その魔物は!?」
「僕が狩って来たんだ。食べれる魔物だよ」
驚いている二人に僕は説明した。随分前から森に入り魔物を倒していた事、ムラサキ病で大変な状況で少しでも生活の足しに出来ないかと思って魔物を狩って持って帰った事。
説明すると父ちゃんと母ちゃんは随分驚いていたけど母ちゃんの顔がどんどん険しくなっていったのが分かった。
「ネール!あれだけ森に入ったら駄目だって言っただろ!森は危ないんだ!魔物に食べられちゃったらどうするんだい!」
母ちゃんが僕に怒鳴った。母ちゃんから怒られるのはなんとなく想像していた。
「うん、わかってる。それでも僕は少しでも役に立ちたいんだ」
すると母ちゃんは涙を流しながら僕を抱きしめた。
「あんたはまだ子供なんだよ!そんな気を使わなくていいんだ!」
そして母ちゃんはごめんね、ごめんねと涙を流しながら繰り返した。父ちゃんも悲しそうな顔をしていた。
前世は僕だって親だったんだ。父ちゃんや母ちゃんの気持ちは分かってるつもりだ。小さい子が生活の為に危険を冒すなんて、親からすれば情けない、悔しい、辛いって気持ちになって当然だと思う。
しばらくして父ちゃんが口を開いた。
「ミュリーネ、やっぱりノーザンの町に行こう」
ノーザンの町に行く?何の話か分からない僕に母ちゃんが教えてくれた。
「私のお兄さん、あんたの伯父さんがノーザンの町で商人をしているのは知っているだろう?そこに厄介になろうって父ちゃんと話していたんだよ」
うちの畑が魔枯病になって母ちゃんが提案したそうだ。だけど、曾爺ちゃんや爺ちゃんが必死に開拓して村一番の広さの畑を手に入れた。
そんな土地を引き継いだ父ちゃんにとっては愛着はもちろんあるし、曾爺ちゃんや爺ちゃんに顔向け出来ないという事でマチカネ村から離れる事に凄く葛藤があって踏ん切りが付かなかったそうだ。
「だけど子供を危険な目に合わせてまで畑に執着する必要なんてない!」
僕の為、家族の為に大切な畑を手放す決断をする父ちゃんと母ちゃんに僕は誇らしく、嬉しくなった。だけど同時に悲しくもあった。
伯父さん夫婦に会ったことは無いけどとてもいい人だって聞いていた。だけど魔枯病の影響は少なからず伯父さんの商売にも影響すると思う。
そんな大変な中に僕ら家族が厄介に、しかもいつまでお世話になるか分からない状況で、父ちゃんや母ちゃんは肩身の狭い思いをするはずだ。
それを想像すると辛くなると同時に僕の中である決意が生まれる。
魔枯病に罹った土地は10年の間、使えなくなるって事だけど主人公がラスボスを倒し、原因を取り除ければ土地を取り戻せるし正確には分からないけどストーリーの進行を考えるともっと早く畑を取り戻せるはずだ。
魔枯病の解決は主人公が何とかしてくれるまで待つ。その間父ちゃん母ちゃんの生活費と魔枯病が治まり次の農作物を育て収穫できるまでの生活費を僕が用意する。
魔物を狩ってそれを準備するのは難しい。今の僕が狩れる魔物程度だと売っても大した額にはならない。
なら僕に残された道は一つだった。
樫の木の棒をしまっている倉庫の隅っこに僕が隠すように置いていた小さな木箱を空け中に入れていた手紙を取り出した。
僕は騎士見習いになる事を決めた。
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