第46話

 うちの畑で魔枯病が見つかって数週間がたち、徐々にだけど確実に病気は広がってゆき作物やその土壌を濁った紫色に染めていった。


 魔枯病は畑だけではなく村人の家の近くの道や草原などにも広がっていたが、森の方は影響がないようだった。


 人体に影響が無いというのが唯一の救いだった。


 村長さんが連絡したのを受け子爵領の文官とそのお供数名が状況確認の為村を訪れた。


 文官の人達の話だと大陸のあちこちで病気が広がっているようだが数十年前に起こった時に比べると国内の被害は少ないとのことだが、隣国ではかなりの被害が出ているとの情報があるらしい。


 隣の国......。


 ゲームの設定にもあった。主人公は商人の息子だったが両親は無実の罪で投獄、処刑された。


 罪を着せた貴族に復讐し犯罪奴隷として僕のいる国に来ることになるのがストーリーのオープニング。


 主人公の両親が騙されるんだけどそのきっかけが国に訪れた大規模な作物の不良で食料危機が起こった事だった。


 ゲーム内では詳しい説明はなかったけど、もしかしたら魔枯病が作物不良の原因なのかも知れない。


 そして物語中盤以降、作物の不良の原因がラスボス達にあることを主人公達が知り両親の死の元凶であるラスボス達との戦いに身を投じていくのがゲームの流れだった。


 文官の人達は作物被害を確認し税の減額を行うようにと子爵より指示されているそうで5日程かけて村にある畑全てを確認していた。


 マチカネ村は麦の収穫量から3割程を毎年納めているようだ。マチカネ村全体で見れば実はそれ程魔枯病の被害は少ないと文官は言っていたそうだ。


 だけど、うちは違った。村で一番広い畑には小麦が青々と育っていたが、今では畑の殆どがドス黒い紫色に変わっていてまるで毒の沼地のようなありさまだ。


 村で一番被害を受けたのは僕の家だった。

文官からは税の全額を免除される事になった。


 文官が村を去ったあと、父ちゃん母ちゃん僕の三人は変わり果てた畑を眺めた。


 税が免除されても生活はかなり厳しくなる。何より毎日毎日毎日家族三人で手塩にかけた農作物が理不尽に奪われ、そして曾爺ちゃん達が命を賭して切り開いた土地は当分の間、新たに農作物を育てる事か出来ない事に悲しみと悔しさと怒りが込み上げてくる。


 父ちゃんも母ちゃんも僕の前だからか気丈に振る舞っている様子だけど家族である僕には二人が深く悲しみそしてこれからの生活への不安を抱いている事が分かった。


 ラスボス達を倒せば土地は元に戻る筈だ。


 だけど僕にラスボス達を倒す事は出来ない。


 農民の僕には圧倒的に力が足りないからだ。


 僕に出来るのは父ちゃん母ちゃんの為に少しでも生活の足しになるように行動する事だけだった。

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