第45話

 僕の家で育てていた野菜が魔枯病という病気にかかっていたようだ。鑑定すると地脈の魔力の乱れで発生する病気との説明が表示されたけど、その病気がどの程度僕らの生活に影響があるのか鑑定内容だけでは読み取れなかった。


 ただ、父ちゃんや母ちゃんの今まで見たことのない表情や雰囲気を見る限りかなり不味い気がしてならなかった。


 言いようのない不安に襲われた僕は魔物との戦いを中止し父ちゃんの帰りを待った。


 昼前に父ちゃんが村の人達に話に行くと畑から飛び出してから中々帰って来ず帰って来たのは夕方になってからだった。帰ってきた父ちゃんの表情は深刻なままだった。


 「父ちゃん、おかえり」


 「ああ、ただいま。ミュリーネ、ネール、話があるからいいか?」


 母ちゃんは無言のまま頷き僕もそれに倣った。


 「ネールが昼間見つけた野菜だけど、どうやらムラサキ病になっていたみたいだ」


 ムラサキ病?


 「ネールは知らないかもしれないけど、作物が紫色になって枯れる病気なんだ。しかも病気は土にも広がって、当分の間その場所で作物が育たなくなるんだ」


 「当分って?どのくらいなの?」


 「大体10年ぐらいだ」


 「10年!?」


 父ちゃんは説明を続けた。どうやら鑑定で表示された魔枯病という名称は知られてないようだがムラサキ病という名前で広まっているようだ。


 父ちゃんの説明では原因は分からないけど作物とその土壌が紫色になり作物が枯れ、その土地で作物が育たなくなる。


 ムラサキ病は兆候が見つかるとすぐに他の場所に広がっていくそうだ。ただ不思議なのはムラサキ病に罹る場所とそうでない場所があり畑半分がムラサキ病になるけど残り半分は全く影響を受けないような事が多々あるらしい。鑑定にあった地脈の魔力が関係しているのだろうか?


 実はマチカネ村開拓の始まりはムラサキ病が関係しているようだ。曾祖父ちゃんの若い頃にも一度大陸のあちこちでムラサキ病が発生したらしい。


 農作物を育てるのが出来なかったため、あっちこっちで食料不足に陥りムラサキ病の影響を受けてない土地を求めて各地で未開の地の開拓が実施されその中の一つがマチカネ村だったそうだ。


 父ちゃんや母ちゃんの世代の人達は小さい頃によく親から聞かされていたらしい。


 父ちゃんが村長の所に着くと既に何人か村人が集まっていて、皆んな自分の所の畑にムラサキ病の兆候を見つけた。


 それぞれの状況の確認やここにいない村人を訪ねて皆んなで一緒に村全ての畑を確認したそうだ。村人達の畑のあっちこっちでムラサキ病に罹っている場所を見つけた。


 母ちゃんと僕がやったようにムラサキ病に罹った作物とその土壌を運び出し火をつけ処分して回ったようだ。


 火で土ごと燃やせば病気が広がりにくくなるというのが通説の様になっているらしいが不確かなようだ。


 粗方処分を終えてから、取り敢えず様子見するしかないとの結論になったようだ。村長さんはすぐに領主様へ報告しなければと数名の村人をお供にノーザンの町へ向かった。ノーザンの町から領主様への伝言を依頼するようだ。


 「ま、まあなんとかなるさ!幸い家の畑もムラサキ病になっている所は少ないからな!今のところ、だけど」


 「なんとかって、あんた。もしムラサキ病が広がってしまったらどうするんだい」


 父ちゃんと母ちゃんがあーでもないこーでもないと言いあい、それは夜遅くまで続いたけど何かが解決したり何か答えが見つかる事はなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る