第38話

 マーウェル騎士団の若手騎士であるアドルの戦いを見せて貰える事になった。ゴーティに促されアドルから少し離れた所にある切り株を椅子代わりにして座り、アドルの姿を注視した。


 「魔物はいつ現れるか分からないからアドルを注意して見ていてくれ」


 僕の隣りで腕を組んで立つゴーティが言った。しばらく魔物は現れず、静かな森に響く斧の甲高い音を聞きながらじっとアドルの姿を見つめた。


 すると剣を片手に持ち、だらんと下げていただけのアドルが急に剣を正面に構えた。アドルの向こう側から何かが駆ける音が聞こえた。フォレストウルフだ。


 僕が湖で遭遇した弱い個体と同じフォレストウルフが木々を縫いアドルに向かっているのがわかった。


 フォレストウルフは距離を詰めるとアドルに向かって飛び掛かった。アドルは一切の無駄な動きなく、飛びかかってくるフォレストウルフを体の向きを少し変えるだけで躱した。そして躱し様に、フォレストウルフを空中でぶった斬った。


 切られて真っ二つになったフォレストウルフの身体が飛びついた勢いのまま転がっていった。本当に一瞬の出来事だった。


 早っ!マジかよ!アドルの戦いぶりに唖然とした。確かにステータス値は高いしスキルの補正もあると思うけど凄すぎ。騎士、半端ねぇ。


 驚いた僕の顔をみて、ゴーティがニヤリと笑った。


 「ふふっ。どうやら騎士の実力を感じて貰えたようだね。折角だからもう少し見てみるかい?」


 「はい!宜しくお願い致します!」


 それから何度かアドルの戦いぶりを見学した。ときおり複数の魔物が同時に襲って来ていたけどその時は魔法を使っていた。アドルのステータスに風魔法のスキルがあったから、あれが風魔法なのかな?


 なんか半透明な刃物が飛んでって魔物をズタズタにしていた。攻撃魔法なんて初めて見たよ。かっこいいし便利そうだし、実にファンタジーだ。


 ときおりゴーティが戦闘についてや、普段の騎士の訓練なんかについても話してくれた。


 レベルを上げる事は大事だけどそれと同じくらい戦闘の技術を身に付ける事が大事だって。だから兵士や騎士は強くなる為に普段から戦闘訓練を欠かさないよう努力する事が大切との事だ。


 なるほど技術か。確かに大事そうだし僕には全然足りてない部分だけど、残念ながら僕にはそれを教えてもらえる人がいないからなぁ。でも確かに必要そうだよね、戦う技術って。取り敢えず今日のアドルの戦闘を参考に独学でやるしかないな。




 「よし、それではそろそろ村に戻ろうか」


 気づけば日が傾いてて夕方になっていた。ゴーティの後について村の方へ向かった。護衛の騎士達も木こり達も野営地への帰り支度をしていた。少し離れた所に樫の木の棒を作ってくれた木こりのおっちゃんもいて、帰り支度していた。


 ん?あれ?なんか......いる?おっちゃんの更に向こう側に何かがいる様な気がしたけど薄暗くなりかけてる森の中は見通しが悪くて......って、動いた!あれ多分魔物だよな?おっちゃんに向かってる!


 僕は咄嗟に走り出していた。騎士達が近くにいない状況と魔物の向かってくるスピードを感じ急いでおっちゃんの方へ走った。やばい!来るっ!


 「おっちゃん!魔物!伏せて!!!」


 おっちゃんは、えっ?って顔をしたけど魔物の近づく音にようやく気付いたのか魔物が飛びついた所を間一髪、伏せて躱した。


 飛びついて空を切った魔物の先に丁度走り込んで来た僕を魔物、フォレストウルフは間髪入れずに襲って来た。


 フォレストウルフとは何度も戦って慣れていた。フォレストウルフの攻撃のタイミングや間合いは大体分かっていた。


 だからこそだったと思うけどアドルの魔物との戦い方を咄嗟に真似る事が出来た。


 無駄な動きをせず、体の向きだけを変え躱し、躱し様に一撃を与える。


 たまたま持ってた鉈が役に立ち、フォレストウルフに与えた鉈の一撃は魔物の体深くに刃が通った。


 流石にアドルの様に一刀両断とは行かなかったけどなんとか倒せたみたいだ。


 ふぅ、よかったよかった。おっちゃんにも怪我はなさそうだな。いやぁ、それにしてもやっぱ金属の武器はいいなぁ。木の棒だったらあと二、三回はぶっ叩かないと倒せないからなぁ。この鉈、貰ったり出来ないかなぁ。


 とか思っていると何やら気配を感じそちらを振り返ると、ゴーティをはじめ騎士団の面々が集まっていて、皆一様に驚きの表情を浮かべ僕を見ていた。


 あれ?これって結構まずくね???

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