第23話

 ヨコヅナデビルを咥えたままこちらに唸り声を上げる姿は完全ロックオン、僕に敵意剥き出しだ。フォレストウルフは色違いが5種類いて強さや特徴が全然違う。


 向かい合うフォレストウルフは黒色でその他の色違いと比べて一番弱い。一番弱いけど今の僕にとっては強敵だ。


 僕が釣ったヨコヅナデビルを咥えている。頭を潰した事で血の匂いに引き寄せられたのか。ゲーム内で魔物は基本的に森から出てこないって設定になってるけど絶対じゃない。 


 なんで魔物が森から出て来ない設定なのかよくわからないし、ゲーム中盤以降、その設定どこいった?て感じで森以外でも魔物に遭遇する様になっていて設定が結構曖昧でブレていた。だけど生まれてこの方、村にいて魔物を見たことはなかった。魔物は森から出ないというのが当たり前になっていた。


 今まで釣って放置していたヨコヅナデビルの死体が無くなっていたのはこういう事か。魔物が森から出てきて食べてたんだ。今まで遭遇しなかったのは運が良かっただけかもしれない。


 てか普通に考えたら毎回湖に来るたび死体が綺麗さっぱりなくなっていて気づかない自分はどうかしてるんじゃないかと考えても、後悔先に立たず。


 やばい、まじでどうしよう。冷や汗が背中をつたい全身の毛が逆立ち、身体の震えが小さいものから徐々に大きくなっていくのがわかる。


 こちらに鋭く視線を向けていたフォレストウルフがこちらに視線を向けたまま、ゆっくりと探るように前足を動かした。一歩、また一歩とゆっくり慎重に近づくフォレストウルフに、なすすべなくフォレストウルフとの距離を保つように後退る。


 じりじりと僕とフォレストウルフの距離が縮まっていく。ぱしゃ。気づくと湖の水に足が浸かっていた。そういえば狼は水場に逃げ込んだ獲物は諦めるって、昔テレビで見たことがあった。それしか、ない。


 ゆっくりと後退りどんどん足が水に浸っていく。膝辺りが水に浸かったタイミングで勢いよく湖に飛び込んで必死に泳いで距離を取った。足がつかないくらいの所まで一心不乱に泳ぎ、振り返ると、フォレストウルフが水際でうろつき水に入ろうかどうしようか迷っている様子だった。


 しばらく様子を見ていると諦めたのかフォレストウルフが森の茂みに入っていった。


 助かったぁー!間違いなく死んじゃうと思ったけど、なんとか助かった。


 もう少し様子を見ようと思ったけど湖の水がめちゃくちゃ冷たくて身体が冷えてきていたのと、このままだとヨコヅナデビルに襲われちゃうかもしれないから、ゆっくりだけど水際まで泳いで湖から上がった。


 そのあとは釣り道具を回収して急いで川を降り、家に帰った。ずぶ濡れのまま家に帰ったから父ちゃんには不思議がられ母ちゃんからは怒られた。


 家に着いてからしばらくすると緊張の糸が切れたのか、どっと疲れが襲ってきたのでベットに横になると直ぐに眠った。


 薄暗い中で目が覚めた。家の外に出ると遠くの山際が紫だっていてもうすぐ夜が明けそうなのがわかった。


 近くの岩に腰掛けて今後の方針を考える事にした。昨日はめちゃくちゃ怖い思いをした。改めてこの世界が現実なんだと感じた。だからこそ強くなりたいと思った。


 魔物は基本森から出てこないって設定が曖昧だから湖でフォレストウルフに遭遇したわけど、という事は僕の住む村だって今までは大丈夫だったけど何かのきっかけで魔物に襲われる事も十分考えられる。


 父ちゃんと母ちゃんの顔が浮かんだ。あの二人を守りたい。村での生活を守りたい。強くなろうと心に決めた。

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