第14話

 小鳥遊は音楽室にいた。


「よう」


 彼女に声をかける。


 案の定、むすっとしてこちらを睨んでいた。


「なんですか、いきなり呼び出して」


「お前も似たようなことしてるだろ…」


 つくづく自分のことを棚に上げるやつである。


「悪かったよ。騙すようなことして」


 こういう時は、素直に謝るに限る。


「先輩のくせにあたしを騙そうなんて五億年早いです」


 作戦会議のときのはしゃぎっぷりは滑稽だった、などとうっかり口走らないように気を付ける。


「…ホントにこれでよかったんですか?」


 一応許してはくれたようなので、胸をなで下ろす。


「お前もしつこいな。これで満足だよ」


 あれから思い返してみたが、やはりこれが一番しっくりくる結末だと信じている。


「先輩も物好きですね。自分の幸せが一番じゃないですか」


 小鳥遊は呆れていた。


「前も言ったろ。あれは独りよがりだって」


 きっと俺では桜井を支えきれないだろうし。


 俺は続ける。


「俺さ、『泣いた赤鬼』が昔から苦手だったんだけどな」


「あ、あたしもちょっともやっとした終わり方で好きじゃないですねぇ」


 奇遇である。


「でも今ならあの話を書いた作者の気持ちがわかる気がするよ」


 誰かのために行動することは、なんだか誇らしい。


 きっと作者はそんなことを思っていないかもしれないが、こういうのは自分の中で勝手に解釈できればいいのだ。


「それはそれで独りよがりだと思います」


「だよなぁ」


 そう、どこまでいっても俺は独りよがりなのだ。


 だけど━━━


「俺が納得できているなら、それでいい」


「そうですか」


 そうなのだ。


 もう一度、小鳥遊に聞いてみた。


「どうだ、俺の書いたシナリオは」


「まぁ、先輩にしては悪くなかったんじゃないですか」


 お前がそういうのなら、充分だ。

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