春樹さんは墓の前にしゃがみこんだまま動かなかった。僕とマチはそんな春樹さんの背中をじっと見ている。

「どうして」久しぶりに戻ってきた春樹さんにマチはそう言ったあと、言葉を飲みこんだようだった。

 自分の居場所の手がかりを誰かに言っておいてくれれば。それは誰でもよかったんだ。今こうして戻ってきても。マチは両方の手のひらをぐっと握りしめたまま立っていた。

 きっかけが必要だったのかな。春樹さんはバンドの友だちを頼って大阪に辿り着いた。

「最初は作業員だったけれど、上司の人がいい人でね」

「試験を受けて事務職になったんだ。任用替えってやつさ」

「それじゃお兄ちゃんはいま公務員なの」

 マチがあきれた顔で僕を見る。ここに戻れなくなったのはミキが原因だったのかな。それだけではないだろう。それでも結局、ここに戻るきっかけになったのはミキだった。

「僕がずっとここにいることは知っていたんですか」

「耳をふさいでいてもわかったさ」

 そうか、あの頃僕は星になりかけていた。おやじさんもマチも取材を受けていたし。

「来てよかったよ」春樹さんが弱々しい声で僕に言う。

「行くんでしょう」

「行こう」

 僕はマチの言葉にうなずいた。

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スターズ 阿紋 @amon-1968

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