ひどすぎる

 ––– 杞憂だった。

〇〇さんのツイートには、あれから冷やかしや妬みのコメントが、明らかに増えていたが……


『みんな♪ 沢山のコメント有難う♡ なんだか賊族ゾクゾクする表現が多いけど、すっごく嬉しいよ🥹』


 …と、意に介していない、というか理解していない。 何たるポジティブ・シンキング。

〇〇さんは世の悪意を知らないのだろうか?


『今日の休日、予定がないの…… 今からママにお手掛でかけけしますね♪それでは、またね♡』


 …鬼ママを手に掛ける? 史上最強の親子喧嘩が開幕か?!

 …なんて、ツッコミはいいとして、本屋に行けばまた逢えるかなぁ…


 こうして、俺は淡い期待を胸にショッピングセンターへと足を向けた。

 残念ながらというべきか、本屋に〇〇さんは現れず、『そんな好都合がある訳ないよな』と、心の中ではにかむ結果となったが。

「おっ?『僕のおくさん』の作家さんが新作を出しているな。今回はミステリーか」

 俺はその本を購入すると、ショッピングセンター内の喫茶店に向かった。

 ––– たまには外でコーヒーを飲みながら読書もいいだろう。


 お客が少なかったせいもあってか、テーブル席に案内され、届いたコーヒーの香りを楽しみながら数ページめくった時だった。


「あ、ヒノモトさん!」

その声に顔を上げると、そこには同じ小説を持ち、「わぁ!その小説お求めになったんですね?お揃いです」と、にこやかな笑みを浮かべる〇〇さんの姿があった。


 都合の良すぎる偶然に、驚いたためか、「あっ、〇〇さん。偶然ですね」と、答える俺の声は、少し上ずっていた。


 …… その後は、先週購入した小説の話や、お互いの事で話に花が咲き、長い時間もあっという間に過ぎ去っていた。


「じゃあ、また連絡しますね♪」

夜に妹と食事の約束があるらしく、お互い連絡先を交換してショッピングセンターの外に出た時には、沈みかけた太陽が街をオレンジ色に染めていた。


 その日の夜、〇〇さんのツイートには、

こう書き込まれていた。

『隙な人が出来ました♡』


 …〇〇さん、酷すぎるよ(笑)


       【完】

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〇〇さんのツイートがヤバすぎる なかと @napc

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