鈴村 恋歌

 しーちゃんこと、親友の詩乃を家に招いた。

 2人で、私が賞を取ったお祝いをしようとのことだった。

 買ってきたケーキを食べながら談笑していると、しーちゃんが突然黙ってしまった。

「どうしたの?」

「……」

 しーちゃんは黙ったまま、私の方へにじり寄ってくる。私はそれに気圧されて、壁の方へと後ずさる。

 私を壁まで追い詰めたかと思うと、また動きを停止させてしまった。

「ね、ねえ。どうしたの?目が怖いよ?」

 しーちゃんは私の右手を取ると、顔の前まで持っていく。

 そして、私が緊張で握っている拳を解くと、人指し指を彼女のその口に含んだ。

 しっとりとした柔らかい感触が私の指先を撫でる。

 痺れるような、気色悪いような。生暖かい舌が指を這う感覚に思わず身震いする。

「あの、さ。しーちゃん?何してるの……?私の指、そんなに舐めてさ……。やめて、くれない……?」

 私の声など届いていないように、しーちゃんは私の指を舌で転がし続ける。

 さらに、歯を立てて私の指を食べてしまうんじゃないかと思うくらいに、吸いついてくる。

 私は、それにどこか得体の知れない快楽を感じていた。

 こんなにも、目の前の相手が私に絶対的な服従を誓うかのように、私の指を舐めてくる。私に媚びるかのように、上目遣いで見つめてくる。

 気持ち悪さと、快感が入り交じって、思考回路がめちゃくちゃになる。

 これ以上続けたら、頭がおかしくなってしまいそうで、咄嗟に指を引っ込める。

「ねえ、どういうつもり?」

 しーちゃんは何故、急にこんな行為に及んだのだろうか。

「……」

 しかし、答えてはくれなかった。

 ただ、さっきまでの表情とは打って変わって、何かを悟ったような、諦めたかのような顔をしていた。

「何か言ってよ……」

 自分の声が震えているのが分かった。これは、快感からくるものだと言うのもわかっていた。

「私…私はっ――」

 彼女は長い話を始めた。それは、私への……いや、彼女自身への失望とも言うべきものだった。

「うっ、うぅ……」

 いつのまにか、彼女の目は赤くなり、涙が流れていた。

「しーちゃん。いや、詩乃」

 その顔が見られて、私は嬉しい。

 どれだけ、劣等感を感じても、決して外に出そうとしない、しーちゃんが私の前で泣いた。しーちゃんが、私に屈した。その事実だけが私にとって至上だった。

「ごめんなさい……」

 今までずっと、そんな邪な気持ちを抱いていて。なんだか、騙してしまったみたいで、少し罪悪感を感じる。

 でも――。

「詩乃には一つ、言うことがあるんだ」

 しーちゃんの唾液で濡れた、人指し指を私自身の舌で拭う。

 しーちゃんの味を感じる。所謂、間接キスだ。

 こんなにも、ぞくぞくする間接キスを

 私は知らない。ペットボトル越しとかではなくて、肉体を通じたキス。最もキスに近しい、間接キスだと思う。

「迎えに来たよ? 私の大好きな詩乃」

 今この時、この台詞を言うために、私はここにいる。

 対等な恋愛って素晴らしいと思う。けれど、私はそんなんじゃ満足しない。

 アンバランスな基礎の上に成り立った関係。

 今の、私達のように。

 私がしーちゃんの上に立った。打ち負かした。

 自己肯定感という翼をもがれた私だけの天使。なんて愛おしいのだろう。

 私は絶対に彼女を手放さないし、彼女もまた私から逃げられない。

 今度は、私の方から指を伸ばす。

 彼女の口内へと挿入する。

 呆気に取られ、ぽかーんと開いたままの口を犯す。

 舌を親指と人指し指で摘む。他人の舌は少しグロテスクな感触。

 頬の裏を指でなぞる。彼女の唾液をいっぱいに指に付着させて、彼女の口から引き抜く。

 今度は自分の口まで持ってきて、ケーキのクリームを舐めとるかのように、指をしゃぶる。

 これが、彼女の味なのだと噛みしめていると、つい、口角が緩む。

 私の表情の変化を感じとった彼女が見せたのは“怯え”だった。

 これから、彼女を存分に堪能する。

 想像しただけで、頭がとろけてしまいそうだ。

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指を咥えて見ていた。 桂花陳酒 @keifwa

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