第36話 呪いの終わり
火曜日の午後11時、
彼は日向の父親に電話する
「日向は大丈夫ですか。」
「死にました。」
「でも、呪い屋が付いていたでし
ょ。」
「呪い屋も死にました。」
電話の向こうでは母親の鳴き声が聞こえてくる
「そうですか、次は俺の番ですね。」
「無事を祈ります。」
博人は電話を切る。
彼は日向の死にショックを受ける。
今度こそは大丈夫だと考えていたのだ。
パソコンに向かおうとするが手につかない。
何をすればいいのか思いつかないのだ。
その日は寝ることにする。
水曜日の朝、博人が登校する、この前までは4人で登校していたが1人になってしまっている。
さくら、
3人も日向が死んだことに感づいているのだ。
朝のホームルームで日向が死んだことを担任が言いづらそうに告げる。
クラスは沈み言葉を発するものはいない。
その頃、
離れで
「五條勝弘が死んだそうです。」
「誰ですかそれは。」
「破門したものです。」
「そうですか、私たちには関係ないこ
とです。」
「それが、赤壁の家に関わって死んだ
ようです。」
「死ぬ時まで五條に恥をかかせます
ね。」
「はい、そのようです。」
「祓い屋は誰です。」
「祓い屋はいなかったようです。」
「愚かな、怨霊の呪いのことを知らな
かったのですか。」
「呪い破りの陣を使ったようです。」
「自分1人で解決するつもりでした
か、身の程知らずの恥さらしが。」
美月が怒りだす
「落ち着いてください。」
「そうですね。」
「はい。」
「呪われた人は全て死んだのです
か。」
「後、1人生きています。」
「いつまで持つのですか。」
「金曜日の夜です。」
「では、木曜日の午前中がタイムリミ
ットですね。」
「こちらから連絡するのですか。」
「いいえ、連絡が来た場合に備えるの
です。」
「はい、分かりました。」
美月は内心助けたいと思っているが依頼がなければ動けないのだ。
博人は午前中の授業は手に着かない。
昼休み、さくらが声をかけてくる
「大丈夫。」
「もうダメだよ。」
「そんなこと言わないで。」
「それより、さくら大丈夫か。」
「どういうこと。」
「さくら、洋のこと好きだったろ。」
「何で知っているの。」
「見ていればわかる。」
「大丈夫じゃないよ。」
「なら、自分のこと考えていたら。」
「そんなことできない。」
「どうして。」
「あんたたち、いつも4人で居たから
よ。」
「今じゃ1人だ。」
「博人だけでも助かって。」
「難しい注文だな、もう手がないん
だ。」
「諦めないで。」
「無理、いやごめん。」
さくらは泣いて立ち去る。
放課後、博人は1人で帰る、この前は4人で帰っていた道だ。
家に着くと母親に電話をする
「博人、大丈夫。」
「うん、日向が死んだよ。」
母親が言葉を失う
「今度は俺の番だ。」
「そんなこと言わないで、お父さんに
調べてもらっているから。」
「分かった。」
もう、祓い屋と呪い屋の一流が挑んで失敗したのだ。
他に良い手があるとは思えない。
博人は諦めてしまっている。
彼は自分が確かに抗った証拠としてネットの掲示板にあったことを書き残そうと考える。
彼は思い出しながら書き始める
これを皆さんが読んでいるとき、俺は
死んでいるでしょう。
ことの始まりは肝試しの競争でした。
どちらが赤壁の家の一番奥の部屋に行
けるか競ったのです。
俺たち4人は一番奥の部屋へ行き勝ち
ましたが、大きな代償を払うことしな
りました。
それは命です。
俺たちは玄関から赤壁の家に入りまし
た。
玄関には黒い影がおり、居間ではソフ
ァーが飛んでくるポルターガイストに
遭いました。
台所では包丁が飛んできて、廊下へ逃
げました、その時、逃げるかどうか相
談しました。
それが俺たちの運命を決めたのです。
俺たちは進むことを選びました。
そして一番奥の部屋へ入ったのです。
そこでは少女の声が頭の中に聞こえて
きたのです。
その声は「最初はお前、次はお前、そ
の次はお前、最後にお前」と言ってい
ました。
それは呪い殺される順番です。
俺たちはお祓いをしました、それも2
回です。
しかしお祓いをしてくれた和尚さんは
2人とも亡くなりました。
3日目の夜、仲間が1人死にました。
次は除霊を頼みました、かなり実力の
ある人です。
しかし、赤壁の家に入って行ったまま
出てきませんでした。
そして、3日後の夜2人目の仲間が死
にました。
今度は呪い屋を雇いました。
さらに3日後の夜、3人目の仲間と呪
い屋が死にました。
3日後は俺の番です。
もう助かる方法は思い当たりません。
俺はこんな思いをする人を出したくあ
りません。
赤壁の家には近づかないようにしてく
ださい。
決して、一番奥の部屋に入ってはいけ
ません。
書き終わった後、博人は泣き出す。
そして水曜日の夜は暮れていく。
木曜日の朝、博人は登校するが、昨日は泣いてそのまま寝たためひどい顔だ。
さくらと目が合うが、話はしない。
朝のホームルームは沈んだままである。
午前中の授業も静かに終わる。
昼休み、博人の携帯に父親から連絡がある
「博人、五條家に電話しなさい。」
「知っているよ、呪いの家系なんでし
ょ。」
「知っているのか、なら電話したん
だな。」
「五條勝弘と言う人に頼んだ。」
「ならいいが。」
「その人死んだよ。」
「えっ、そうなのか、当主は五條美月
と言う人だ、一度かけてみなさ
い。」
「分かった。」
博人はもう一度、調べてみることにする。
放課後、博人は1人で帰宅する。
家に入るとパソコンを操作する。
五條について調べるとやはり古くから続く呪いの家系で呪い屋の世界では一流と言うことである。
次に五條勝弘について調べる、こちらはホームページを作って宣伝をしている。
博人は違和感を感じる。
そして、いろいろな書き込みを調べる。
すると五條勝弘は五條家を破門されており、評判も危険なことは断って引き受けないことで批判的な意見がある。
博人は疑問に思う五條勝弘が危険な仕事を受けないのに今回は引き受けているのである。
彼はさらに五條美月について調べるが五條家の家長と言うことだけしか出てこない。
彼女の仕事の内容が出てこないのである。
博人は五條家に電話する
「五條です。」
「呪いのことで電話したのですけ
ど。」
「少々お待ちください。」
「はい。」
「家長代行の五條樹です。」
「
「どのような呪いですか。」
「呪われていて俺、明日の夜、死ぬん
です。」
「事情を話してください。」
「俺たち4人で肝試しをして呪われた
のです。」
樹は赤壁の家の件ではないかと思う
「どのように呪われたのです。」
「玄関に入ると黒い影がいて、居間で
はポルターガイストに遭いまし
た。」
「それで呪われたと。」
「いいえ、台所では包丁が飛んできま
した。」
「一番奥の部屋で若い女の翳りのある
声を聞いたのですね。」
「いいえ、違います、少女の声を聞き
ました。」
樹は思い違いかと思う
「なんて言っていました。」
「最初はお前、次はお前、その次はお
前、最後にお前と言っていまし
た。」
「お祓いとかはしたのですか。」
「はい、2回お祓いをしました、しか
し、2人とも和尚さんが亡くなりま
した。」
樹は赤壁の家に似た状況に冷や汗が出る
「そうですか。」
「除霊もしましたが、その人は赤壁の
家に入ったきり出てきませんでし
た。」
「今、赤壁の家と言いましたか。」
「はい。」
「赤壁の家は過去に2度扱っていま
す。」
「1回は成功して、赤壁の家は除霊し
たはずです。」
「成功しているのですね。」
「はい、除霊をしてから解呪すれば助
かります。」
「でも、除霊する人が居ません。」
「大丈夫です、前回除霊をした人を頼
みます。」
「そうですか助かります。」
「ただ、そちらへ到着するのに2日か
かります。」
「えっ、早くはなりませんか。」
「遠いのです、どんなに急いでも土曜
日の朝が精一杯です。」
「では、助からないのですね。」
「タイムリミットはいつですか。」
「金曜日の夜です。」
「すみません、間に合いません。」
「分かりました。」
博人はもっと早く調べていればよかったと悔やむ。
今日の午前中に電話していれば助かったのだ。
樹は離れへ行く。
美月が樹に聞く
「随分、長い電話でしたね。」
「赤壁の家の件でした。」
「昨日話していた人ですね。」
「そうです、あちらに向かうのに時間
が足りません。」
「運がなかったとしか言いようがない
ですね。」
「それで怨霊は復活しているのです
か。」
「おそらく別の霊だと思われます。」
「どうしてですか。」
「私たちの時は若い女の翳りのある声
でしたが、今回は少女の声だそうで
す。」
「そうですか、赤壁の家自体に何かあ
るのかもしれませんね。」
美月は考え込む。
博人は悔し涙に暮れて夜を過ごす。
彼は金曜日、学校を休む。
昼前に両親が帰って来る。
父親が博人に言う
「学校休んだのか。」
「うん、行く気になれない。」
「五條には連絡を入れたか。」
「入れたけど、遅かった。」
「どういうことだ。」
「こちらに来るのに2日かかるそう
だ。」
「なんてことだ。」
「俺が木曜日の午前中に連絡していれ
ばよかった。」
博人は
「何か手はないの。」
母親は泣きそうである。
博人と両親は居間で何をするでもなく過ごす。
夕食の後、博人は自分の部屋へ行く。
両親は話を始める
「何かできることはないの。」
「もう無理だよ。」
「諦められるの。」
「祈ることしかできないよ。」
彼らは祈り始める。
午後10時頃、博人の部屋の床に黒い穴が開く。
穴から2本の手が出てくる、手は青白く小学生の高学年くらいの小さな手である。
博人はついに来たかと思う。
引き続き穴から腕が出てくる、短く細い青白い腕だ。
博人は動けなくなる。
手が穴の周りをビタビタと探る。
呪いはさらにズルズルと出続け、黒髪のおかっぱ頭が出てくる。
顔は少女の顔をしているが青白く、目は黒い虚空になっている。
口は半開きで
「ああああああ」
とうめき声を出す。
さらに肩、胸と続けて出てくる。
少女の形をした呪いは足まで穴から出る。
呪いは立つことも四つん這いになることもなく腹ばいのまま博人の方へ這いずっていく。
手が彼の足に触れる、手は冷水のように冷たい。
博人から冷や汗が出てくる。
呪いの手が彼の足を掴む、さらに体に掴まりながらズルズルと上がって来る。
博人の顔が恐怖に歪む。
そして、呪いの頭が彼の顔の所へ来る。
黒い虚空の目が彼を見る。
彼は魂を抜かれるように倒れる。
居間では両親が博人の無事を祈っていたが物音に博人の部屋に駆け付ける。
両親はそこで倒れている博人を見つける。
彼らは博人に呼びかけるが返事はない
ネットの書き込みには、博人の書いた赤壁の家についてのことが警告を発している。
しかし、赤壁の家には来訪者があとを絶たない。
赤壁の家の一番奥の部屋では新たな来訪者を待ち受けている。
赤壁の家 ぽとりひょん @augift0925
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