第2話 こいつが神様……?

「————わけで…………には……けだが…………」


 ……?なんだ?誰かの声が聞こえる……?ここはどこだ?視界がぼんやりして……あれは、人……か?人っぽい形だけ見える……。

「じゃあ…………べ…………が………だ。慎…………に……べよ………ん?お……」

 何て言ってるんだ……?なんだ、今どういう状況なんだ!?分からない……俺、今日何してたっけ?確か、今日はちょっと早起きして……いや、あれは俺の勘違いだったのか。それで、急いで会社に行ってて、事故って…………ま、まさか!?

「…………い!……い!!おい、聞いてんのか?おいおい、聞いてんのかって聞いてんだぜこのタコスケ!!」

「!!は、はい!すいません、聞いてます!」

「ん?おおそうか、ちゃんと聞いてたか。いや、オレの方も言い過ぎて悪かったぜ」

「…………!?」

 視界が晴れた……!!でも、ここ……いつもの道じゃない。神殿……か?なんでこんな所に?それに、目の前のこいつは誰だ?あの怖いおじさんじゃない。もっと若くて……俺と同じくらい、か……?


「でもよ。敬語っつーのはやめにしないか?なんつーか、堅苦しいだろ?タメ語でいいぜ。それと、呼び捨てだ」

「……?あんた、何なんだ……?」

「あん?何なんだって……ああそうか、そういや名前まだ言ってなかったな。オレの名前はアルティ。アルティ・メットアルティだ。おっと、おめーさんは言わなくていいぜ。もう知ってる」

 もう知ってる……?どういう意味だ?ていうか、俺が聞きたかったのは名前じゃないないんだが……。


「おい、なんだおめーさんのその顔」

「えっ!?ああいや、別に……」

「いいや分かるぜ。オレの名前に文句があんだろ、ルキィ……。言っとくが別にふざけてるわけじゃねえぜ?神の名前ってのはみんなこんな感じだ。名付け親の野郎さんがどうしようもなくナンセンスだからな」

「か、神……?あんたが……?」

「……あん?なんだ、とんだおとぼけさんだな、おめーさん……。さっき言ったろ?オレは、おめーさん達の世界の神だ」

 な……!?神……現実にいたのか!?さっきっていつの事だ……?


「つーか、そろそろ決めてくれよ」

「えっ?何を……?」

「何をって、能力の事に決まってんだろ?一つだけ、何でも特殊な能力を授けてやるから選んでくれって言ったじゃねえか。オレはあんまし頭良くねえから、おめーさんに任せるぜ」

「……は?な、何でもって……?俺に?その、神様であるあんたが、いわゆる……チート能力を授けてくれるってのか?」

「ああ。……おっと、何でもって言ってもよ。時間を操作する系統のやつはダメだぜ」

「え……?なんで……?」

「時間を止めたり、ゆっくりにしたりして一人だけ時間の流れが変わると、そいつに誰も干渉出来なくなるんだ」

「干渉出来ない……?それと時間がどうして関係あるんだ?」

「マラソンに例えてみろ。仲良く足並み揃えて走ってるのが、時間で言う普通の状態。横に並んでるからちょっかいが出せる。でも、みんなが立ち止まってる中一人だけ走ってたり、一人だけスピードアップしたりしたら他の奴とズレるだろ?そうなれば横にそいつが並んでないから、ちょっかいが出せない。つまり干渉出来なくなるってわけだ」

「はあ……。よく分からないけど……」

「簡単に言えば、ズルすぎるからダメよって事だな」

「なるほど、理解した」

「よし。でもまあ、そんな事はそもそも神にも出来ねえ。普通はな」

「へえ……」

「時間停止能力でスケベな事してやろうって思ってたのかもしれねえが、残念だったな、ンホホ!!」

「ばっ……!!ち、ちげえよ!!」

「ふ~ん……。ま、可哀想だからこれぐらいにしておいて……。さあ早く決めな。おめーさんどうすんだ?どんなのにすんだ?」

「えっ?ああ、ちょ、ちょっと待ってくれよ」

 これ、もしかしてめちゃくちゃラッキーな状況なのか?俺、異世界でチート能力使って無双できるのか?いやそもそも俺は死んだのか?記憶が、あのおっちゃんの車にチャリぶつけた時から飛んでてよく分からない……。

 

「な、なあ。俺って、今から異世界に転生したりすんのか?」

「あん?……ん~と、異世界じゃ……ねえな」

「じゃあ、俺(の生活)は今までと何ら変わりないって事か?」

「ま、そういう事だな。おめーさん(の外見や中身)は、今までのおめーさんと何一つ変わらない」

「そ、そうなのか……」

 あっぶね……!異世界転生するものと思って戦闘向きの能力にしたら後悔する所だった!じゃあ、もっと日常生活で役に立つ能力じゃないとな。……待てよ?異世界転生するわけでもないなら、なんで俺にそんな力を授けてくれるんだ……?


「……その、アルティ……だったっけ?悪いけどもう一つ聞いていいか?どうして俺にそんな力を授けてくれるんだ?どうして俺を選んだんだ?」

「ん?そりゃ、面白かったからだよ。別に誰でも良かったんだがよ。今日のおめーさん、めちゃくちゃ運悪かったろ!それがコント見てるみたいで最高だったぜ、ンホハハ!!」

「そ、そうなのか……」

 さっきからこいつの笑い方が気になるけど、そんな事気にしてる場合じゃない。超ラッキーじゃないか。何にする?何でもアリ……そう言われると逆に困るな。起きて速攻で出勤できる瞬間移動か?いや、空を飛ぶってのも捨てがたいな……。ロマンがあって尚且つ実用的な…………。


「早くしてくれよぉ~……。なあ知ってるか?優柔不断な男ってモテねえんだぜ。あっ、だからおめーさん彼女出来たことねえのか!!納得だぜ、ンノハハハ!!」

 ぐっ……!き、気にするな。あんな罵倒どうでもいい。そうだ、理想の彼女をつく……それは人権的な問題があるな。それより金か?やっぱ男は金っていうし……金があれば仕事もしなくていいし彼女も出来る……か?


「は、や、く、し、ろ、よぉー!おめーさん、ちょいと長いぜ?シンキングタイムは十二分にあったはずだろ?」

「も、もうちょっと待ってくれよ!こっちは真剣に考えてんだよ!」

「もうちょっと……どのくらいだ?」

「えっ!?あ、あと……五分くらい?」

「…………」

「……だめ?」

「カウントダウンスタート!!ごー!よーん!さーん!!」

「ちょっ……!?わ、分かった!!決める!決まった!今言うから!」

「よし……!おめーさんみたいに柔軟な男、オレは好きだぜ?」

 なんだコイツ……。


「はあ……じゃあ、言うぞ?」

「ちょいと待った。おめーさん、これを」

「……?」

 アルティは、俺に何かを投げて渡す。


「なんだ、これ?イヤリング……?」

「ただのイヤリングじゃねえぜ?そいつこそが、おめーさんに特殊能力を授ける神器だ」

「神器……これが?」

「そいつを両おててさんの中で強く握りしめて、おめーさんが選んだ能力を心の中で三回唱えんだ。キチンと、噛まずにな」

 ちょくちょくこいつの言い回しが気になるなあ……。まあやってみるか。


「さ、レッツらスタートだ!オレも見るのは初めてだから楽しみだぜ!!」

「よし……!!すぅ~……」


 お金を無限に生み出す能力、お金を無限に生み出す能力、お金を無限に生み出す能力!


「よし、出来た!なあ、これで良いのか!?」

「ああ。あとはそいつをどっちかの耳に付けろ。耳たぶに当ててやれば、ズズズっといくはずだぜ」

「ズズズってなんだよ……。こうか?……うおおっ、ほんとに来た!!」

「だろ?う~ん、なかなか似合ってるぜ。右耳にばっちりアクセントだ。良い男っつーのはちょいとしたアクセントが利いてるもんだからな」

「そうなのか……?まあいいや。それじゃあさっそく行こうぜ。ほんとにありがとな!」

「そだな。それじゃあ……」

「ああ……」

「元の世界へ!」「大会会場へ!」


「「…………は?」」

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お金を無限に生み出す夢の能力、戦闘には使えなくね? 日向 首席 @syuseki_hinata

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