月夜に浮かぶ水上の城
長月瓦礫
月夜に浮かぶ水上の城
夜空に満月が三つ並んでいる。
一片の曇りもなく、非常に美しい。
ブラディノフは船着き場にいた。
夜の海は穏やかに揺れ、潮風が心地いい。
「月とは、恒星の光を受けて反射する衛星である」
まずは要件定義をしなければならない。
詳しいことは聞いていないが、この星から見える衛星も同じような仕組みで輝いているのだろう。
「衛星も惑星同様動く星であるため、恒星から放たれる光の当たり具合が変わる。
満ち欠けが発生するのはそのためである」
地球の満月の夜の出力を百とした場合、この星における出力は単純計算でその三倍となる。地球から出て行かなければ永遠に分からなかった。どうなるのだろうか。
「一の月はこの星の未来の光」
周囲の気温がぐんと下がった。
「二の月は影に潜む者への希望」
ブラディノフは船着き場から飛び降りた。
足元が凍り、水面の上に立った。
これはすごいかもしれない。余力がまだまだある。
「三の月は夜が見せる優しい夢」
指を鳴らすと、海面が一気に凍り付いた。
歩いても支障が出ない。氷の厚さは数センチ程度か。
電力供給の影響はなさそうだ。
マンションから離れ、海を歩いて行く。
地球ではこんな無茶苦茶なことはできない。
幸い、この星の住民は数が少ない。
闇を好む生物はどうにか生きられるかもしれない。
「いや、そうなる前に駆除されるかな」
特定外来生物に指定され、皆殺しにされるだろう。
どのようなかたちであれ、それはただの侵攻である。
「せめて、平和的手段をとりたいところか」
氷の柱が伸び、上へ上へと伸びていく。
三つの満月に照らされながら、形作られていく。
マンション並みの大きさになってから、彼から笑みが消えた。
さすがに調子に乗りすぎたかもしれない。
こっそりとその場を後にした。
一番に気づいたのは、マンションの管理者であるヴァルゴだった。
今朝は冷え込んでおり、空調を暖房に切り替えた。
電力施設に異常は見られず、変化もない。
不思議に思いながら、外に出た。それを見た途端、老人は悲鳴を上げた。
彼の叫び声を聞いて、他の住民が外に出てきた。
誰もが異様な光景に絶句した。
海が凍りつき、城が建っている。
氷はそれなりに厚いようで、ヒビ一つ入っていない。
数キロ先まで続いており、遊技場くらいの広さがある。
他のマンションからも野次馬が現れ、城を背景に写真撮影が始まった。
住民たちは途方に暮れ、ただ立ち尽くすばかりだ。
「海凍ってるじゃん! お城まで建ってるし! どうなってんの⁉」
スピカの声で全員我に帰った。
「んなもん知るか! 巡回しとったら、こんなのがあった!
どうりで寒いわけだ!」
「他のところは何もないみたいよ。
こんなことになってるのはうちだけみたい。誰がやったのかしらね、これ」
「昨日の夜は何ともなかったよな……どうしてこうなったんだ?」
「そうだ、監視カメラ! はやく確認しないと!」
「そうだな、誰か映ってるかもしれない」
監視カメラは常に稼働しており、マンション周辺を見守っている。
こんなことをした犯人が最上階にいるだなんて、誰が思うだろうか。
昨晩に暴れまわった本人は疲れ果て、ぐっすり眠っていた。
月夜に浮かぶ水上の城 長月瓦礫 @debrisbottle00
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