おまけ

 これは、ジャンがエヴァに心境を吐露とろする少し前のお話。



***


 妹と二人で行動することが多い俺は、めずらしく一人でいつもの店に顔を出した。彼女は今日、父に呼ばれている。きっと、そろそろ身を固める準備をしろだの婚約者が云々うんぬん言われているんだろう・・・・・・エヴァの気持ちも知っているくせに。父に頼めば好いている人とも直ぐに一緒になれるだろうが、面白がっている父はそれを許さないだろう。今日もエヴァをせっついては、自分でどうにかさせようという何ともおせっかいな行動だろう。そんなことをするから、エヴァに嫌われるんだよ・・・・・・。


 父と妹のやり取りに思いをせ、ため息を一つこぼしながら扉を開けた。



「・・・・・・らっしゃい」



 ・・・・・・この人は、また誰もいないからって煙草吸って。気だるそうな妹の想い人にも一つため息がこぼれた俺は、カウンター席へ足を向けた。ほんと、いい人なんだけどなぁ。人と関わるのを極力避けているんだよ。まぁ、周りというか前王の所為せいではあるけど。



「一人か?」

「エヴァが気になります?」

「いや・・・・・・いつも二人でいるからってだけだ。そんで、食ってくんだろ?」



 勿論食べては行くが、早くない? 俺、まだ返事してないんだけど。調理台へいそいそと移っていたジャンさんは、返事を待たずにジュッと溶きたまごをフライパンに流し込んでいた。美味しいからいいんだけどさ。さて、今日は何の肉が入るんだろう?



「今日は何の肉ですか?」

「ん? ああ、昨日西の森で依頼中に出てきたホーンラビットだな」

「ホーンラビット! また食べたかったんだよね~」

「お、そんなに気に入ったのか? なら、今度エドガルドが来る時用に取っといてやるぞ?」

「お願いします! ジャンさんのホーンラビットはうまいですよね~」

「そーか。それはよかった」



 ジャンさんが狩ってくるホーンラビットは、他の店と違って全く獣臭けものくささがない。何だろう? 血抜きの上手さかな? 以前この店で初めてホーンラビットが出たときは、それはもう驚いた。俺、獣臭くてホーンラビットが苦手だったし。


 前食べたホーンラビットを思い起こしていると、香ばしい特性だれの香りが目の前に降りてきた。



「昨日はガリコを塗ったトーストだったんだが、いい時に来たな。今日のお供は塩の握り飯だ。いるか?」

「いる!!」

「ハハッ! わーったよ。ちと、先食って待ってな」



 言われた通り食べて待っていようと、ふわふわのたまご焼きにフォークを入れる。とろりと垂れる良い感じに半熟ぐあいの黄色の衣をまとったホーンラビットの肉が顔を出す。あーうまそう!いただきまーす!


 一口頬張ほおばると、甘辛い特性だれとさっぱりとしたたまごソースがたまごの甘みと一緒に口いっぱいに広がる。中から出てくるホーンラビットのホロホロとほどけていく肉が、噛めば噛むほどいい味を出す。ノリ菜のしょっぱ辛さがいいアクセントになっていた。最後にふわっと駆け巡る削ったスカイフィッシュの香ばしい香りが、後味まで美味しくさせた――うん、やっぱりジャンさんのホーンラビットは旨いわ。


 一口だけで胃も心も旨いたまご焼きに支配された俺に、更なる支配者が召喚された。嗚呼ああ、このたまご焼きに塩だけつけた握り飯とか――最高すぎだろ。


 「のど詰めるんじゃねーぞ」と暑くなってきたからか、たっぷりの氷が入った水を渡してくれるジャンさん。うん、人と関わりたくないくせに、こういう細かなところまで優しいんだよね。


 渡された握り飯とともに再びたまご焼きに手を伸ばした俺は、早くエヴァに落とされてしまえなんて頭の中でつぶやいていた。エヴァ、人に関心がない奴でも人と関わるのが不器用な奴でも、細かなところまで優しい奴なら兄ちゃんは許すぞ? たまご焼きしか作れなくても、旨いしね。





 妹の想い人とともに他愛もない話をしながら、たまご焼きをつつく。エヴァ、早く来ないかなぁ。

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ひねくれジャンのたまご屋 蕪 リタ @kaburand0

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