或る冒険の終わった後。
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「……なんだったか、そう。武士は食わねど高楊枝」
或いは『言わぬが華』、か。こちらの方が近そうだ。
――村の人々は狩りや農耕、その他の様々な仕事を営み、生活している。だから今回のような蛮族の被害や何やらに際してギルドを通して依頼をする。そして冒険者はその依頼を受け、達成し、報酬を得る。そしてまた次の冒険へ。何もおかしいことではない。ないが、その実情は救われた側が夢にも思わない現実に彩られている。
そしてまた次の冒険へ……つまり、そうして繰り返さないと食い詰める職業であるということが、未来ある幼い子らの瞳に輝きを持たせた
「世知辛い」
袋に詰まって渡された報酬を見た時には
この家の窓に
――そしてその、問題を抱えた次の依頼に頭を悩ませるべく部屋を出る。不相応に広いリビングに向かうと、やはり生活に不釣り合いな大きなテーブルには、珍しく先客がいた。
食事は水とパンだけ。
「……今はプライベートですよ、ダァト」
フードくらい取ったらどうですか、と椅子を引いたところに、そのダァトの手元から灰皿が差し出された。
「……ありがとうございます」
灰を落とす。フーデッドマントで素顔を隠したまま、対面の怪しい風貌の同居人――もとい、この家の本来の持ち主は両手で木杯を持って、音もたてずに水を飲み、やはり音も立てずにテーブルに戻して暫くした後で、思い出したかのようにフードを取った。
/
ダァト。彼女はそう名乗っている。
「君。何か悩みがあるのだろう?」
ヴェイゼルドと同じように煙草を銜え、指先に小さな魔力が弾けて火を
「はい」
灰皿をテーブルの真ん中に進める。小さく上がった眉が、続きを促した。
「報酬が良く、二人も乗り気で、難度も不相応にはならない……とは思いますが、そんな依頼が」
「
ひとっていうのは、独りで出来ることに限りがあるから、とダァトは言う。そしてまた、続きを促す。
「……けれど、手が足りないと思われます。貴女の言うとおり」
だが、そう言うダァトはそれこそ独りで今までやってきたのではないか。
「少し違う。わたしは、独りをしてきただけ。それで良かったンだよ?」
「……足りないものが頭数だけなら合わせてもいい」
「本当ですか!?」
「ヴェイゼ、大きい声も出るンだ?」
「……失礼しました」
「内弁慶はお互い様。いいよ、どうせ売ってない名だ。君の顔は立てるけど、わたしの顔は割れないし。君が誰かと冒険に出るのは好ましいし、無事に戻って来るなら更にいい。納得した?」
「貴女がそう言うなら是非もないところですが、当機はダァトが何ができるのかを知りません」
「………………ふ、ふ。だろうさ。言ってないし」
おそらくは冒険者。けれど家を空けることはそれほどなく、生活は低水準で安定させている――
「わたしが君の郎党に加わって一番できるのは数合わせだよ。荷物持ちでもいい。君の知りたいことの多くを知らないし、太古を解き明かせるような学も技術も持ってはいない。だからできることっていうのは少しの魔術。あとはそう……槍を使うくらいかな」
「槍……? あ、嘘」
視線を彼女から外してようやく気付く。いつの間に? ずっと? もしかして、出逢ったその日にも、ソレはこうして、常にダァトの傍に在ったというのか。
エラー。
確かに言われてみれば――言われるまで気づかないほど自然に。街を歩く人々が服を着ているという
「君は少し前よりも感情が出るようになったねえ」
いいことだ、と無名の槍士は紫煙を吐く。
代謝でも緊張からでもなく、事実に対して喉の渇きを覚えたのは、おそらく再起動してから初めてのことではなかったか。
「わたしを君の仲間にどう紹介するかは任せるよ。……おやすみ、ヴェイゼルド」
また明日、という当たり前の挨拶をその声で聴いた最後はいつだったろう。そんなことを思い出すのにも時間がかかるほど、それは彼女にとって衝撃的だった。
――
⇒To Be Next Adventure.
ディア・マイスター 冬春夏秋(とはるなつき) @natsukitoharu
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