第11話 風邪は簡単に人に移る。
「おはよ」
「おー廉斗、おはよう」
翌日、良くも悪くも熱が下がった廉斗は、普通に学校に行った。まだ少しだけだるさが残っているような気もするが、昨日ほとんど寝ていたので、今日も一日中寝て過ごそうとは思わない。
どうせする事もないので、きちんと学校へ来た。
「なあ秀、小南さん知らない?」
「小南さん?あー、今日はまだ来てないな。多分」
「そうか、」
昨日の礼を再度言おうと思って探してみたのだが、姿は見えなかった。廉斗はいつも時間ギリギリに来ているので、結愛がどのくらいの時間に来ているのはを知らない。
しかし、時間ギリギリに登校した廉斗が姿を見つけられないという事は、まだ結愛は学校に来ていないという事だ。
「小南さんと仲良い古水さんに聞いてみたらどうだ?」
「おぉ、脳筋のくせに冴えてるな」
「誰が脳筋だ」
雨の中を傘も刺さずに走って帰る奴を脳筋と呼ばずに何と呼ぶのか。それだと廉斗も脳筋になってしまうが、瞬時にそれを判断できる秀は廉斗では比べものにならない。
そんな秀の案に賛同しながらも、すでに着席している希空の所まで足を運んだ。エメラルド色の輝かしい髪色を映えさせている希空の隣に立って、目が合ってから話しかけた。
「おはよう古水さん。………いきなりだけど、小南さんがどこにいるか知らない?」
「おはよう。そういえば結愛ちゃんは……どうしたのかしらね」
希空なら知っていると思って声を掛けたのだが、いつも一緒に過ごしている希空ですら知らないようで、何だか無性に心配になってきた。
「古水さんも知らないんだ」
「うん。知らないね。結愛ちゃん、いつもは早くに来てるんだけどね」
辺りをクルリと一周見渡して、希空も結愛がいるかいないかを確認した。やはり結愛の姿は見つからないようで、希空も不安そうな顔付きになっていた。
「………ところで新城くん。体調良くなったんだ」
「それはもうお陰様で、」
「ふーん。あっ、なるほど。今日改めて結愛ちゃんにお礼言いたかったんだ」
「まあそんなとこ。もちろん古水さんにも感謝してるよ」
昨日は結愛が遅くまで残っていたから印象に強くあったが、よく考えれば希空も来ていてくれた。それで差し入れも持って来てくれたので、感謝するべき相手は結愛だけではない。
むしろ希空から看病に行こうと提案していそうなので、真っ先に感謝するべきだった。
「とって付けたような感謝は不要ですー。」
「ごめん」
「嘘嘘。体調戻ったみたいで良かったよ」
ニッコリと人当たりの良い愛想のある笑みを向けられながらも、廉斗は希空の元を後にした。
「古水さんも知らないってさ、」
「へぇー、」
秀の所に戻った廉斗は、案を出してくれた秀にとりあえず報告しておいた。廉斗と希空が話すのを一部始終見ていた秀は、疑問でもありそうな顔をして当たり障りない返事をする。
「どうしたか?」
「………お前ってあの2人と仲良かったっけ?」
「仲良いっていうか、俺らクラス委員だからちょっと接点があっただけ」
秀が気になっていたのは廉斗と結愛の接点らしく、意味もなく首を傾げながらも、廉斗の顔をじっと見つめた。
秀がそう疑問がってしまうのも仕方がなく、それは秀だけでなくてクラス中が気になってもおかしくない事だった。
結愛と希空はクラスだけでなく、学年、学校を通しても顔立ちの良さで噂になっており、その防御力の高さも備えて有名だった。
結愛は可愛い系の顔立ちで、希空は綺麗系の顔立ちをしている。廉斗と話した事のない人ですらそう噂してるのを聞いた事があるくらいだ。
そんな彼女らなのだから、秀がハテナを浮かべて廉斗には聞いてしまうのも、言ってしまえば当然の事だった。
「接点があるのは分かったけどさ、………普通それくらいで看病に行くかね」
「何でお前がそれ知ってんだよ」
「いや、お前の家知ってるの俺くらいだから俺が教えたんだよ。俺も一緒に行くか?って聞かれたけど、流石に邪魔しそうで悪いしよ」
「なるほど、道理で俺の家を知っていたわけだ」
雨の日に途中までしか一緒に帰っていない結愛が、何故廉斗の家を知っているのかと少しだけ気になったが、昨日の廉斗はそれを詳しく考える暇もなく寝込んでしまった。
その答えは秀が家の場所を教えたからであって、廉斗が気になっていた事は解けた。秀は廉斗の家にも来た事があるので、秀が教えたのなら納得はいく。
勝手に人の個人情報を流出するなと叱りたくなったが、そのおかげで色々と助かったので、今は辞めておいた。
「で、何かあった?」
ずっとそれが聞きたかったのか、秀は急にわくわくした表情を作った。
「別に何も。………あ、強いて言うなら裸見られた」
「お前の?」
「そう俺の」
「そんなん興味ねえよ」
「………興味持たれた方が怖えよ」
つまらなそうな顔をしている秀に冷静にツッコミをいれながらも、昨日の事を思い返す。結愛が廉斗の部屋で眠って遅くまで看ていてくれたのだが、それは言わない方が良い気がしたので、口を閉ざした。
秀も廉斗が接点を持っているからといって結愛や希空とお近づきになろうとしているようではなく、何か起きなかったかを楽しそうに聞いているだけだった。
「ねえ新城くん」
引き続き秀と話していれば、スマホの画面を眺める希空が廉斗の後ろに立っていた。
「ん?どうかした?」
「さっきの質問の事なんだけど、」
「さっきの質問って小南さんのやつ?」
「そうそう」
希空も希空で気になったのか、廉斗が質問した後も彼女なりに調べてくれていたらしい。その優しさと友達思いに感動しつつも、耳を傾ける。
「結愛ちゃん今日休みだってさ」
「まじ?」
「大マジよ。ほら」
休みというのが信じられなくて思わず聞き返せば、手に持っていたスマホの画面を見せつけられる。そこには確かに『今日は休む』と書いてあった。
「昨日、新城くんの風邪が移ったみたい」
結愛が休む事になった原因が、耳と目を通して頭に流れてきた。いくら廉斗が寝ていたとはいえ、密閉された部屋に数時間一緒にいたのがまずかったようだ。
「………それは悪い事したな、」
「気なさなくていいの。看病しに行ったのは私達の責任だから」
看病をしてくれた人に風邪を移してしまうという、何とも罪悪感しか覚えない行動に悔やむが、今更どうする事も出来ない。希空の言葉で多少はネガティブな思考が和らいだが、それでも自分の責任だという根付いた考えは消えなかった。
「だから、今日は新城くんが看病に行かなきゃだね」
「え?」
「だって昨日約束したでしょ?それに、そんなに気にするなら看病しに行ってあげなよ」
風邪が治ったばかりの病み上がりの人間が看病をしに行って大丈夫なのかという不安はあった。だけど、そうでもしないと気が治まらなかった。
他にも言いたい事や謝りたい事もあったので、行くしかないだろう。
「分かった。看病いくよ」
「良かった。本当に」
希空が嬉しいような悲しいような顔をしている気がしたが、おそらく見間違いだろう。
(昨日良くしてもらった分、俺もしっかりとやらないと)
そう心に抱いて、結愛の家に看病しに行く事が決まった。
【あとがき】
・コメントやレビューいただけると嬉しいです。過去話も含めて、ぜひ応援していただけると!!!
ツンデレ美少女は人の心を読めるそうなので、心の中で『大好き』と叫んでみた。 優斗 @yutoo_1231
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