-バレたくないん-

岡田公明

2/15

 目の前に1つのキューブ型の箱を置く

 机に立てかけている時計は11時を指していて、今日は2/14日


 バレンタインであった。


 私は、それを知っていたものの

 結果、今日チョコを渡していない


 今も、目の前にある。



 元々は手作りを予定していて

 相手は、お世話になっている人だし~ほらね?


 折角ならさ?


 なんていう感覚だったんだけど...


 実際に作ってみると思いのほか上手く行かず


 自分のセンスに半ば絶望したのは何日か前


 その後、仕方がないと思い買いに行ったのが三日前


 その時のスーパーはバレンタイン一色で

 ちょうど、これにしようと思って、購入した。


 別に中身にこだわりはないし、よく見なくてもいいだろうと

 包装された、気持ちお高めのものである。


 ぶっちゃけ、相手のことが好きかと問われれば好きだけど

 でも、私が告白して相手が迷惑するというのは分かっていて


 だからこそ、唯一の相手は彼で、私は彼にしか渡さない


 体は義理チョコ、少し本命みたいな風にすれば


 上手く誤魔化せると思った。


 しかし、ながら実際に目の前にすると...


―図書室


『ん、どうした』


 彼が、私を見て不思議そうな顔をする

 文芸部の先輩である、彼は優しい顔で微笑んで


 優しく尋ねてくれる


 原因は、私が恐らく挙動不審だから


 そして


『ひぇっ!?な、なんでもないです...』


 その時の私は、気づいていたのだ

 彼のカバンから見えるチョコに


 もしかしたら、本命を貰ったのかも?

 でも、私がここで上げたら遅いだろうし、迷惑かもしれない


 第一、こんな生半可な気持ちだし...


 義理だし、今日じゃなくてもうん、良いよね


 それに、楽しみは続いた方が良いし


 ちょっと遅れるくらいでもいいよね


『そう?それならいいんだけど...』


 それだけで、去ると思っていた彼は、私の横に座る

 どういうこと?なんかもしかして期待されてる?


 普段の彼もそんな感じのことを私は思い出していない

 そして、一人でパニックになっていた


 でも、このタイミングではおかしいことに気づき



 結果として、今日に至り、目の前にはチョコが残されているのだ

 自分でも中身を確認していないチョコレートだが


 値段が値段だけに、美味しいことは想像できるし

 きっと、多分、恐らく喜んでくれることは分かる


 しかし、目の前にすると、不安が大きくなるし

 変なことを考えてしまう性格で...


 ど、どうしよ...?


 まぁ、明日渡せるしとなって、結果渡さない可能性も見えてきた。


 賞味期限はいずれ来るし

 折角買ったチョコレートを自分で食べるのは惜しい。


 他の人に貰っていたのを、見ていたし

 それで、自分も感謝を...まぁ伝えたい気持ちはあるし


 ならば、明日確実に渡したい


 でも、それで要らないって言われたらどうしよう...

 いや、優しいしそれは無いはず


 でも、もしかしたら私が好きだって勘違いして拒絶されるかも?

 流石にそれはないにしても、何を思われるのかは見えないし


 他に、好きな人がいたら自分がこうして渡すことで彼や周りに何か悪い影響を与えかねないし


 そんな風に、思うと不安が大きくなっっているのが分かる


 それに、もう一日遅れているわけだし

 勘違いはないかもしれないけど、彼に好きな人がいたとしたら


 自分が、こうやって出てくるのっておかしくないかな?

 建前と本音が、錯綜しながら、自分を追い詰める。


 ど、どうしよ...こんなこと誰にも相談できない...


 自分が、このタイミングで相談すれば

 周りが勘違いするかもしれない


 好きな人がいるといったこともないし

 これが、バレンタイン当日の事であれば、何とか友チョコの話とかで誤魔化せるが


 もう、既に過ぎようとしている

 というか、事実としてバレンタインの一日は終わっている


 こういう時に、相談できるように、話をしている友達はいない。


 相談すれば、乗ってくれるかもしれないけど

 そのために、自分のことを話すのは少し恥ずかしいし


 もっと、しっかりと気持ちが固まってからがいい


 まだ、本音ではあっても本心ではない可能性だってある。


 彼は、身長が高い訳じゃないけど、カッコいいし優しいし趣味が合う

 一個上の先輩で、文芸部の先輩で、困った時には相談にのってくれるのが


 良い所だ、それに気づいてか彼の周りには、女の子も男の子もそこそこいる


 ある程度、友達のラインは決まってるみたいで不特定多数じゃないけど

 そこそこの人が、周りにいて


 その枠に、ギリギリ私がいるだけで


 そんな私が、義理チョコを渡す...


 友チョコではない、義理チョコだ...


 普通に、友達の中であれば、ノリ?で上手くできるが

 そういうのではない、あくまで敬意を持つ先輩に対して、義理チョコを渡す


 あれ...めっちゃ失礼じゃない?


 よくよく考えれば、ものすごく失礼なことだと気づく

 これだと、私が忘れててうっかりしてて、誤魔化すために持って来たと思われても

 おかしくはない訳で、そう思うと、失礼じゃない?


 あれ、どうしよ...


 でも、自分で食べる気はない

 ギリギリ友達に渡せるけど...


 出来れば、彼に渡したい。


 値段も値段だし

 自分で、少しは考えて買ったし


 それに、元々渡す予定だったわけだし...


「どうしよ...どうしよ」



―ふと時計を見るともう時間は一時間は経過している


 しかし、目の前に置かれている箱も私も何も変わってはいなかった


 ただ、時間が過ぎているだけ


 小さいはずの針を刻む音も、今は大きく聞こえる

 それが、静寂と焦りによって増幅している


「とりあえず、渡そう...渡そう、うん」


 何にしたって、感謝の気持ちを体現したものに過ぎない訳だし

 それを渡さないのは、逆におかしいもんね?


 それに、折角買ったんだし

 それを渡すなんて、普通のことだよね?


 必要のない言い訳をする


「でも、喜んでくれるかなぁ...」


 私のことをどう思っているかは分からないけど

 目の前で邪険にはされないと思うけど


 それでも、若干の不安が残る

 実は、何とも思っていなくって逆に鬱陶しいと思われていたら


 それは、寂しい...


「ううん、多分ないよね」


 前向きに、ポジティブに考えよう

 ここで、渡せなかったら他はほぼないわけだし


 後ろ向きに...なったら...だめ...だし


 そうして、何とか、前向きに考える...


「何より、彼は優しいし...」


 微笑んだところを思い出して、顔が熱くなり、頬が緩くなる


 その目も少し上がる口角も、微笑む時にふにゃりと優しい顔を思い出す

 でも、別に好きな訳じゃなくて義理チョコだ...あくまで


「まだ起きてるの?そろそろ寝なさいよ」


 部屋の前を通って気づいたのか、母がそう言ってきた


「は、はーい」


 もう時間が時間だし、明日遅刻をしたり

 いけなかったら、元も子もない


 ひとまずは、寝て


 ―朝になった。


「どうしよ、どうしよ」


 急にテンパる

 まだ、本番は来ていない


 しかし、寝てあっという間に時間が経ってしまって

 その間に、不安感が再び出てくる


「と、とりあえず、学校に...」



 朝食を食べて、学校に行く

 その間に、母に今日急いでるの?と聞かれたり


 友達に、体調とか悪くない?と心配されたが


 その時間は近づいている


 あっという間に、不安だとか考えなくていいと割り切ったのだが

 それにしても、時間が経つのが早くって


 自分だけ、早送りに進んでいるみたいだけど

 確かに、授業の内容は覚えていて



―ガラガラ


 放課後になり、図書室の扉を開く


 まずするのは、本の香り、特有の落ち着く匂いがする

 これがあって、図書室と実感する。


 カウンターに向かうと、まだ、戻していないたくさんの本と彼がいる。


「ん、今日もよろしくね?」


 こちらに気づいたのか、見ていた本から顔を上げて声を掛けてきた

 普段であれば、ここで、何を読んでいるのかを少し気になって見てみたり聞くのだが


 今は、彼が先に居たことで、緊張が湧いてきて頭が回らない


「あ...その...よ、よろしくおねがいします...」


 後半になるにつれて、言葉がしぼむ


「どうした、体調とか大丈夫?顔赤いけど」


 不安になったのか、優しく尋ねて、私のおでこに手を当てる


「うーん、熱は大丈夫みたいだね」


 そう言って、微笑んで


「あ、ごめん、おでこ触っちゃった...

 あの、ごめん」


 本当に申し訳なさそうに言う

 おでこを触られた時点で、私はスリープしていて


「本当にごめん」


 それを見て、慌てたのか再び彼は同じ言葉をつづける


「あ、いえ、大丈夫です...」


 少し、頭が回りそれだけは口にすると

 安心したように、息を吐いた


「本当に、調子悪かったらかえっていいからね?」


「は、はい」


 そして、彼は再び本を読みだした



―ペラペラと、めくる音だけが図書室に響く


 横に座った彼との距離はあまり遠くなくて

 それも、文芸部だが、まだ正式に部と言えない人数だからに過ぎない


 そのため、図書室を借りて実質的な活動はしている。


 名前は、前借の形で。


 そして、その落ち着く空間にも関わらず

 渡すことについて考えていると、手元に開いた本に集中できず


「大丈夫?」


 いつの間にか、再び彼がこっちを向く


「あ...は、はい、大丈夫です」


 イメージしていて、ぎこちない

 緊張が、ずっと膨らむ


「なんか相談したい事とか」


 これは、チャンス


「あの、チョコとか好きですか?」


「うん、好きだけど...」



「「...」」


 ここで、沈黙が生まれた

 彼の頬は、仄かに赤くなっている





「あの...よかったら...チョコ...」





「あ、ありがとう...」


 ぎこちない、感じで四角い箱を渡す

 それを、ぎこちなく受け取る


「こ、これって、バレンタインだから?」


「は、はい...一日遅れになっちゃいましたけど」


 義理であるという、補足はしていない


「えっと、開けてもいいかな?」


「はい...よければ」


 自分も中身は見ていないので、どんなものかは気になっていたし

 気まずい空気が溶けることを考えて


 開けることを促す



「...」


 中身を見て、彼の顔が赤く染まる

 そして、口角が上がる



「えっと、ありがとうございます...」



 ぎこちなく一言彼は、そう言った。

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-バレたくないん- 岡田公明 @oka1098

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