四 魔剣砕きと呼ばれた男(二)

 いくら魔剣砕きソードブレイカーとしての名が上がって、敵に警戒され敬遠されても、自分の安全には繋がらない。


 まず、自分が生き延びることが最優先だが、戦場で逃げ隠れすることはできない。小鬼ゴブリンの群れならともかく、王国軍の英雄、豪傑相手では、逃げ腰の有様では、命がいくつあっても足りない。


 しょせん英雄殺しヒーローキラーの道具に過ぎないのだから、常にその前に立たされ、一番の強敵の前に送り込まれる。


 相手側からは配下を引き連れているように見えても、英雄殺しヒーローキラーの配下に見張られ、逃げ場を塞がれているだけなのが実態だ。


 戦場で役に立たないと思われたなら、味方のはずの英雄殺しヒーローキラーに殺され、次の魔剣砕きソードブレイカーにすげ替えられるのは、目に見えている。


 まず、貯め込んだなけなしの報酬で、魔獣素材の革鎧を手に入れ、『魔剣砕きソードブレイカー』の下に着込んだ。少しでも、心臓や肺を含めた内臓は、『魔剣砕き』の破片から守りたい。


 皮膚や筋肉で止まった破片なら、自分で抜くこともできるし、鎧が復元しようとする時に、鎧に戻って行くから余り気にならない。


 防具の面では、これが精一杯だ。


 現状で、状況を改善する余地は、武器の強化くらいしかないのだが、これが更に難しい。


 報酬も、実際そんなに上がった訳でも無く、戦場で倒された敵の武器を拾うのが関の山だ。

 それでさえ、いい武器は英雄殺しヒーローキラーと取り巻き達が、率先して浚っていく。

 倒された英雄の武器は、自分自身が砕いた魔法の武器の欠片や等級の低い物しか残らない。

 それでも、敵から見て相応の武器を持って、格好がつかなければ相手にされないと主張することで、英雄殺しヒーローキラーの配下達には、武器集めを容認させた。


 彼ら取り巻き達にしてみれば、魔剣砕きソードブレイカーがどんな武器を集め、装備していようと、死んで代替わりする時には、自分達で山分けできるのだから、ちょっとの間預けてやるくらいの感覚でしかない。


 いい装備を持っていれば、敵の標的になるのだから、少し目立つくらいの武器を持たせるのも、自分達の利にかなう。


 そう思わせておけばいい。



 壊れてはいるが、魔剣や武具の欠片は、素材の魔鋼として、まだ強い魔力を帯びている。

 戦場に遺された武器を集めるのと平行して、『魔剣砕き』の欠片も少しずつ革袋に貯めていった。


 放置しておくと鎧に回収/吸収されるが、革袋に入った分は、本体に引かれはするものの、革袋を突き破るまではない。


 そもそも、『魔剣砕き』は、砕いた敵の魔剣の欠片を吸収して、常時少しずつ成長してるとも言えるので、少々回収できてなくても、本体には全く影響ない。


 この欠片を喰って、我が身を『魔剣砕き(鎧)』の一部と誤認させたように、手に入れた武器に魔剣砕きソードブレイカーの欠片を組み込んで、自分と同じように魔剣砕きソードブレイカーに誤認させる、或いは魔剣砕きソードブレイカーに、武器まで同化できないかと考えた。



 魔剣砕きソードブレイカー(鎧)の欠片の入った革袋に、砕けた武器の魔力を帯びた金属片を一緒に入れると、半分は魔力を喰われて錆びとなり、残り半分は魔剣砕きの欠片に同化した。

 鎧本体と同じことを、欠片もやることが確かめられた。


 後は、どんな武器にするかだ。



 剣も、槍も、正式に訓練を受けたわけでもなく、得意とまでは言い難いから、見た目だけでも、押し出しの強い方がいい。



 魔剣砕きソードブレイカーの欠片と同化させた魔鋼を材料に、土辺炉躯ドヴェルクの鍛冶師に頼んで作ってもらった武器は、片手剣程の長さしないが、両手剣並に幅のある剣で、両刃の片側は直刃で、もう片側は波刃だった。

 両刃の剣の鞘に入った斧というか、両刃で刀身の長い鉈のような形状だ。


 防具、鎧・盾としての魔剣砕きソードブレイカーは、受けた攻撃によって砕け、攻撃してきた武器とその主を、その飛び散る破片で砕く。


 武器としての魔剣砕きソードブレイカーは、その衝撃インパクトの瞬間に、魔力の爆発を起こし、打ち合う敵の武器を、敵の防具を砕き、その破片を喰らい魔力を喰らって、より強力な魔剣に再生する。

 


 



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魔剣砕きと狩人殺し~チート無しの一人と一匹はニッチに生きる~ 大黒天半太 @count_otacken

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