5-10 狂気に咲く
広場の中央で、触手をしならせる巨大な
何か、変化が起きている。それは明白だった。
煙幕の中を駆け抜けた
「さぁ、どうする」
「あの女、少将ちゃんを狙ってるって言ったわ」
「見逃すわけには、いかないな」
元よりその気はなかった。
頷きあった二人は、巨大な
「……ちょっと、あんな大きな花、見たことないわよ」
声を振るわせるサリーの顔面は蒼白で、嫌な過去を思い出しているのは明白だった。
息を飲んだモーリスも低く
「いいわ。実にいいわ、あなた達!」
高飛車な笑い声が響き渡り、魔樹の
閉ざされていた瞳が開かれ、
身に着けていた服は酸にでも溶かされたのか。ぼろきれの様になって、上げられた両手からずるりと滑り落ちた。
甘い芳香が風に乗って広がった。
「あぁ、これであなた達が女だったら、もっと良かったのに!」
「それは残念だったな!」
声を上げたモーリスは、レネ・リヴァースに狙いを定めてトリガーを引いた。しかし、その銃撃はすべて、うねる触手の壁によって防がれた。
「気が早いのね」
触手の間から姿を見せたレネ・リヴァースは、その裸体を惜しげもなく空気に
白い指はさらに胸のふくらみに触れる。その肌は瑞々しく張りがあり、まるで生まれたばかりの赤子の様に弾力があった。
(魔樹の魔精を取り込んだのか……?)
一回りほど若返ったようにも見えるレネ・リヴァースの、赤く艶やかな唇がにっと弧を描いた。
「知っていて? シーバートは出生率が低いの。しかも、産めど増やせど、強い魔精を持って生まれるのは女ばかり。前線に立つのは男が望まれると言うのに、どうして私達ばかりがこうも苦しむのかしら?」
「知るか!」
「おかげで女の仕事は子を増やすこと。男の子を授かった者は称賛されるけど、女の子を授かった者は……
したんっと触手が大地に打ち付けられた。
「でも気付いたのよ。女が強い魔精を持つなら、女ばかりの軍を作れば良いじゃない。男達を従わせ、私たちが道を開くのよ!」
その為になら、何だってする。その考えに、染野慎士は共感したのだろう。
レネ・リヴァースの熱弁ぶりに寒気すら感じ、モーリスは顔をしかめた。
「ただ、人手が足りないのよ。一人産むのに一年かかるでしょ? 育てるのも時間と人手がかかる。私達が軍人として生きるためには、もっと協力者が必要なの。だから、各国でスカウトしているのよ。強い魔精を持つ子を産みそうな若い娘をね」
「スカウト、だと?」
「えぇ……強い女を産むため
「拒否権がないのを、スカウトとは言わないよな!」
「あら、そうなの? じゃぁ、訂正するわ。我が国の繁栄のため──」
地面で
「
血走った眼で笑い声をあげるレネ・リヴァースに嫌悪感を抱き、モーリスは「狂ってやがる」と吐き捨てた。
ひゅいっと空を切って襲い来る触手を交わしながら、モーリスとサリーは後退した。
この小さな広場の端から端まで軽く見積もっても、距離は五百メートルあるかどうかだろう。そのほぼ中央にレネ・リヴァースはいる。
しなる触手の攻撃を遮るものはない。
(身を隠せるものはなし、か)
相手の手の内が分からない今はまだ、林の中に戻っての銃撃戦に持ち込む方が良さそうだ。そう考えていると──
「慎士! あんた、こんなバカげたことに手を貸していたの!?」
サリーが怒りの声を上げた。
触手の動きが止み、魔樹の上にいるレネ・リヴァースは笑い声をあげた。
「この期に及んで、説得できると思ってるのかしら? アサゴの男は甘いのね。慎士!」
面白い展開だと言わんばかりににやにやと口元を歪ませるレネ・リヴァースは、魔樹の傍らに視線を落とした。
物陰から再び姿を現した染野慎士の手には拳銃が握られ、その銃口はサリーに向けられた。
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