4-3 候補生回収作戦続行中

 硝煙しょうえんを吹き飛ばす爆炎が上がり、メキメキと木の裂ける音が響く。そこに追い打ちをかけるように、再び魔装短機関銃マギア・サブマシンガンの銃口を定めた。

 爆炎を割き、触手が空を切る。

 その一本がモーリスの頬をかすめ、赤い筋を作った瞬間、一歩後ろに飛びのきながら再びトリガーを引く。

 太い幹の木肌がさらに裂け、縦に筋が出来た。


(亀裂は入れた。後は、回収用の弾を撃ち込めばいいが──)


 じりじりと間合いを詰める魔樹と一定の距離を保ちながら、モーリスは舌打ちをした。援護射撃があれば撃ち抜けそうだが、と考えたところで「待たせたな!」と低く通る声が響いた。

 弾幕にひるんだのか、魔樹ローパーの歩みが止まった。


「俺が牽制けんせいしてる間に、撃ち抜け!」

「了解!」


 黒い大型装甲獣アルマ・ビーストの背で魔装短機関銃を連射するジンの後ろを走り抜け、モーリスはぬかるむ地面を蹴って魔樹の触手と距離をる。

 横目で先ほどの銃撃で出来た亀裂を探した。


 わさわさと揺れる枝葉の向こうに、それはあった。他の亀裂とは異なり、うねる触手がその一点を巧妙に隠そうとしているのが見て分かった。その先に撃ち抜くべき核となる魔精石があるのは明白だ。

 小さく舌打ちをして、魔装短機関銃の残りの弾薬を撃ち込んだモーリスは、煙る視界の中、ホルスターから抜き取った回転式拳銃リボルバーの撃鉄を起こした。


魔精回収マギア・コレクト!」


 輝く魔法陣の中で金切り声と幹の裂ける音が、不協和音を生み出した。

 その躯体が燃え上がり、魔樹は炎の中で触手を振り上げた。のたうち回り、花弁を散らしながら消し炭となっていく。


 ややあって赤い光が煌めき、小さな魔精石は魔法陣の中で一つとなる。こぶし大のそれを手にしたモーリスはすんっと鼻を鳴らし、未だ慣れない重く甘い香りを嗅いだ。


「魔樹の蜜の匂いが濃い……集まって来たか」

「中央に近づきすぎたな。さっさと引こうぜ」


 ジンの提案に同意を示し、白雪スノウの背に飛び乗ったモーリスは情報端末を確認する。


「三班がこちらに向かっている。軌道修正させる」


 モーリスの指示に、はんっと鼻で笑ったジンは、お優しいことだねと言いながら大型装甲獣の背を叩いた。


「おい、一人、こっちに移れ。四人も乗せちゃ白雪が可哀そうだ」


 ジンがそう言うと、黒い大型装甲獣は白雪の背に乗っていた一人をくわえると宙にほうった。


「お前、まだ撃てるな。この辺りは魔樹の巣窟そうくつだ。背後に警戒しろ」


 ジンの指示に了解の旨を伝えた若い候補生は、強かに打った腰をさすりながら魔装短機関銃を構えた。それを確認したモーリスは白雪の背を叩く。


「先導する!」

「おうっ、行くぜ。黒夜アーテル!」


 ジンが黒い大型装甲獣──黒夜アーテルの背を再び叩くと、威嚇いかく咆哮ほうこうが森の木々を震わせた。

 それを皮切りに白雪が走り出す。赤い花が開く低木を蹴散らすように、ぐんぐんと速度を上げていった。その背で、モーリスは回転式拳銃リボルバーから空の薬莢を抜きながら、ぐったりとする候補生と、それを抱えるもう一人をちらりと見た。


 抱えられる男は頬を上気させている。息の荒さを見る限り、だいぶ魔樹の香りにてられたようだ。

 候補生時代に同じような経験のあるモーリスは内心苦笑し──


くらいには辛いだろうな)


 ぐったりする候補生とそれを支える青年に、若かった頃のを重ねた。


「花に気づかなかったのか?」

「……申し訳ありません」

「功を焦ったか? まぁ、説教は後だ。森を抜けるぞ」


 モーリスの手が白雪の背を叩くと、高い咆哮ほうこうが木々を揺らした。

 木々をすり抜け、視界の隅に映った魔物の影に銃口を向けたモーリスは引き金に指をかける。だが、物陰にいる魔物が飛び掛かってくる様子はない。


(白雪の速度にはついて来られないか)


 木の幹を蹴った白雪は、鎌首をもたげた魔蛇サーペントの頭に牙を立てた。血飛沫を上げた肢体がびたんびたんと地面でのたうち回る様相は、すぐに視界から消えた。

 しばらく走り、そろそろ三班と合流するポイントに近づいた頃だ。


「まったく、度胸があるのか予測が出来ないバカなのか」


 振り返ると、ジンが実に楽しそうに笑っていた。彼の言葉に同意を示してため息をついたモーリスは立ち上がる。


「今期の候補生は、血の気が多いようだな」

「……教官、どういうことですか?」

「魔物の餌に丁度いいってことだ。──白雪、こいつらを頼む!」


 白雪の背から舞い降りて岩陰に走り込んだモーリスは、十五メートル先の頭上を見上げた。

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