2-3 『少将ちゃん応援し隊』が見たら羨ましく思うだろうが、ランチデートではない
不躾に彼女を見ていたことに気づき、熱い茶を啜ったモーリスは笑って誤魔化した。
「いいえ。相変わらず、食事の所作が美しいなと思いまして」
「ありがとうございます。古い文化とは言え、生まれ育った国のものですから、大切にしたいのです」
にこりと微笑む綾乃は一度、箸を下ろした。
「ファイルと一緒に挟まれた報告書、一通り確認しました」
「ありがとうございます。お察し頂いているかもしれませんが、お願いしたいことがあります」
「少佐に、この件を通して欲しいのですね?」
「はい。出来ることならご子息にケジメをつけて頂きたいのですが……」
「私から報告に伺うことは出来ますが、ケジメをつけさせるか否かは、少佐のご判断になります」
ケイに幼馴染の結婚騒動に関しては任せてほしいと言ったものの、報告した程度でケジメをつけさせることが出来るとは、正直、思っていなかった。
親である染野少佐にとっては、めでたい縁談だろう。悪い噂の絶えない息子が落ち着いてくれると期待を抱いている可能性もある。そうなると、少佐が候補生の言葉をどう捉えるかによって展開が悪い方に傾くことも予測できる。
「ケイ候補生の証言だけでは説得力に欠けますね。幼馴染の娘さんは、このことをご存じないんですよね?」
「ケイからは何も伝えていないそうです」
「そうすると、
「俺としては……結婚を破談にするくらいの気持ちで、ケイの味方をしたいんですけどね」
「それは、彼の希望ですか?」
「……いいえ、ケイは幼馴染が幸せになれるなら祝福したいと言ってました」
「そうですか」
少し思案した綾乃は、再び箸を手にした。
「
綾乃の言葉にモーリスは唸った。
一手間違えれば、破談にしたいがためにケイが
「急いては事を仕損じるとも言いますからね」
「……少し、少佐への報告を待ってもらえますか? 他から証言が取れないか当たってみます」
「分かりました。出来ることであれば、ケイ候補生の先を照らせるよう、私も協力したいと思います」
「ありがとうございます」
何か打つ手はないのだろうかと考えながら、モーリスはカップの野菜スープに手を伸ばすと、再び綾乃をちらりと見た。
彼女は申し分のない美少女だ。もしも、ケイの幼馴染と同じような目にあったとしたら祖父である翁川少将は黙っていないだろう。身内であればそうなることは容易に想像がつく。
(いや、うちの教官連中も黙ってはいないだろうな)
このアサゴ基地は『少将ちゃん応援し隊』に名前を変えた方が良いくらいに、綾乃を慕っている軍人が多い。彼女の後ろにいる翁川少将の威光もあるが、それだけではなく、控えめに言っても愛らしい彼女を放っておけない過保護な軍人が多いのだろう。
モーリスもまた、自分がそんな一人である認識はあった。ただ、その気持ちがホレタハレタになることはなく、妹を応援するような気持ちなのだが。
唐揚げに箸を伸ばしたところで、モーリスは、ふとサリーのことを思い出す。彼は間違いなく『少将ちゃん応援し隊』隊長だ。
「そういえば、今日は佐里を見かけないんですが──?」
欠勤だという話を何人からも聞いていたこともあり、モーリスは何気なく尋ねた。だが、その話題はまずかったようだ。
綾乃の手が止まり、そのつぶらな瞳が困ったように泳ぐ。
ちょっとした感情が顔に出るのは若さの証だろう。だがそこもまた可愛いと言うか、支えたくなる魅力と言うか──と、『少将ちゃん応援し隊』の心の声を脳内展開させていたモーリスだったが、彼女が次に発した言葉に耳を疑い、
「無断欠勤です」
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