第2話
「あなたはどう判決します? 二人のうちどちらが死ぬべきだと思います? 僕はそれを聞きたいんです」
ソーニャは不安げに彼を見つめた。このあいまいな、何か遠回しに忍び寄るような言葉の中に、ある特殊なものが響いていることを感じたからである。
「私はもう始めから、あなたが何かそんなことをお聞きになりそうな気がしていましたわ」試すような目つきで相手を見ながら、彼女はそう言った。
「そうですか、構いません。しかし、それにしても、どう判決します?」
「あなたは何だって、そんな出来もしないことをお聞きになりますの?」と嫌悪の表情を浮かべながらソーニャは言った。
「してみると、ルージンが生きていって、卑劣なことをする方がいいんですね! あなたはそれさえ判決する勇気がないんですか?」
「だって私、神様の御心を知るわけにゆきませんもの……どうしてあなたはそんなに、聞いてはならないことをお聞きになるんですの? そんなつまらない質問をして、いったい何になさいますの? そんなことが私の決断ひとつでどうにでもなるなんて、それはなぜですの? 誰は生きるべきで、誰は生きるべきでないなんて、いったい誰が私をそんな裁き手にしたのでしょう?」
「神の意志なんてものが入ってきたんじゃ、もうどうすることもできやしないさ」とラスコリーニコフは気難しげに言った。
「それよか、いっそ真っすぐに言って下さい、あなたはどうして欲しいんですの!」とソーニャは苦痛の表情で叫んだ。「あなたはまた何かへ話をもってゆこうとなさるんですわ……いったいあなたは私を苦しめるために、ただそれだけのためにいらしたんですの!」
彼女はこらえかねて、ふいにさめざめと泣き出した。彼は暗い憂愁をいだきながら、じっと彼女を見つめていた。五分ばかり過ぎた。
「いや、お前の言う通りだよ、ソーニャ」彼はとうとう低い声で言いだした。
彼は別人のようになった。わざとらしいずうずうしさも、無力な挑戦的な態度も、すべて消えてしまった。声まで弱々しくなった。
「きのう僕は自分で、許しを請いに来るんじゃないと言ったね。ところが今は、ほとんど許しを請うも同然なことばで話し始めてしまった……僕がルージンや神の意思のことを言ったのは、あれはつまり自分のためだったんだ……あれは僕が許し請うたんだよ、ソーニャ」
彼はにっこり笑おうとしたけれど、その蒼白い微笑の中には、何かしら力ない中途半端なものが浮かび出た。彼は頭をたれ、両手で顔をおおった。
とふいに、ソーニャに対する刺すような怪しい憎悪の念が、思いがけなく彼の心を走り流れた。彼はこの感情にわれながら驚きおびえたように、とつぜん頭を上げて、彼女の顔をひたと見つめた。けれども彼は、自分の上に注がれている不安げな、悩ましいほど心づかいに満ちた彼女の視線に出会った。そこには愛があった。彼の憎悪は幻のごとく消え失せた。あれはそうではなかった。ある一つの感情をほかのものと取り違えたのだ。それはつまり、あの瞬間が来たことを意味したにすぎないのだ。
Ver.1.0 @furontachuanqi
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