私たちは歩き続ける

第43話 夏休み、どう過ごす?

「なんか、劇的に雰囲気良くなった?」


 ミライさんの一言に、私たちは照れたように顔を見合わせた。


「そうかもしれませんね」


 私がさらっとそう言うと、愛生も即座に反応する。


「まあ、雨降って地固まるって感じですかね」

 

 翌週のクィア研究会は、そうして始まった。




 それから夏休みまでの短い期間ではあったけれど、私たちは毎週白熱した時間を過ごした。ミライさんは発表することがない週があっても良いと言っていたけれど、私たちはそれぞれマイペースに、しかし毎週欠かさず研究会に参加し、意見をぶつけ合った。


 愛生は言わずもがなだけれど、特にすごかったのは莉緒だ。本人は大したことはないつもりなのかもしれないけれど、とにかく読書量が多い。毎週三冊程度の本を借りていくので、あっという間にミライさんの持ち込んだ本は読みつくしてしまい、ミライさんに相談しながら図書館で本を借りて読み漁るようになった。

 毎週の発表は一冊の内容に絞っているようだったけれど、段々意見交換の際に述べる内容が洗練されていくのを私たちは肌で感じでいた。


「莉緒のこと完全になめてた……」


 愛生が愚痴をこぼすほどには莉緒の実力は伸びていた。


「なんでそこまで頑張れるの?」


 思わず聞いた私に、莉緒は少し考えこむと、しれっと答える。


「う~ん、別に頑張ってるつもりはないよ。興味があるから読む。読めばもっと興味がわく。だからさらに読む。この繰り返しだよ」


 本の虫とはよく言ったものだけれど、莉緒が本当に紙を食べる虫だったら図書館は食い尽くされていたに違いない。


 気づけば期末テストも終わり、あとは夏休みを待つばかり。

 私たちは夏休み前最後のクィア研究会に参加していた。




「さて、皆さん、まずは期末テストお疲れ様」


 ミライさんが楽しそうに笑う中、私はげっそりとした顔を見せる。


「ミライさん、それは言わないでください……」


 さっさと忘れた方が良いこともこの世にはあるのだ。


「あはは、まあ、結果はどうあれ終わったことには違いないじゃない」


 ミライさんの明るい声が今日だけは心に突き刺さる。


「ミライさん、『終わった』には色々な意味がありますからその辺で」


 愛生が努めて真剣にそう言ったのが、実は私をおちょくるためだということはこれまでの経験上よくわかっている。


「……英語補習のくせに」


 ボソッとそう言ったら、愛生は顔をしかめた。


「それを言うかよ……」


「えっと、二人とも、そろそろ雑談はそれくらいにしない?」


 莉緒が困ったように仲裁に入る。


「そうそう。どんぐりの背比べはそれくらいで」


 朔空も淡々とそう言った。なんだかんだ成績が良い二人には何も言えない。


「えっとまあ、雑談も大事なコミュニケーションだけどね。確かに時間は有限だからそろそろ本題に入ろうか」


 ミライさんがそう言って、部屋の空気が引き締まったのを感じた。


「ひとまず今日は夏休みのことについて話し合いたいと思います。私はせっかくの夏休みだし、クィア研究会はお休みでいいかなって思うんだけど、どう?」


 すると朔空が即座に反応する。


「正直、そうしていただけると助かります。夏休みはほぼ毎日練習で、強化合宿もあるので」


 流石剣道部はスパルタらしい。


「俺は部活に入ってないので、できれば何かやりたいと思うのですが」


 愛生は愛生で自身の希望を伝える。ちょっと前までは朔空と同じ側にいたはずなのだが。


「華恋と莉緒はどうしたい?」


「私もまあ、比較的暇なので何かやるなら参加します」


 ミライさんの問いにそう答えると、莉緒もうなずく。


「そうだなぁ。じゃあ、自主的に何かやりたい人向けの課題を出すから、やってもいいし、やらなくてもいいようにしようか」


 そしてミライさんはいくつか夏休みの宿題を提案した。


「ちなみに私は夏休み中もここにいるから、何か困ったことがあったら来てね」


 こうして私たちの慌ただしい一学期は終わりを告げたのだった。

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