番外編 ベルトルトの現在
「お姉様は、とても素敵な人なのよ」
それが、彼女の口癖だった。親に決められた婚約者は、誰よりも強い魔術師であり、名門マクシミリアン家の養女だ。
「貴方が結婚する気になってくれて、良かったわ」
母はそう言った。心配をかけていることは、分かっていた。けれども自分は、騎士として生きると、とうの昔に決めていた。そのためであれば、誰かを愛するということは、余分なことであると。彼女と婚約したのは、彼女が自分に関心を持っていないからだ。母が望む跡取りなど、おそらく生まれはしないだろうと。分かっていたが、言葉にはしなかった。婚約者が変わっても、それは同じことだった。ベルトルトとアリシアの間にあるのは、男女の感情ではなく、騎士と主としての生き方だった。アリシアは女としてではなく、主として振る舞ってくれた。それが何よりも嬉しくて、ベルトルトはずっと、この人に仕えると決めたのだ。
――――
だから、その子供は、主の子だ。口さがない者が、ベルトルトとアリシアの子であるという噂を広めて、母がそれを信じていても。ベルトルトは、それが真実ではないと、知っている。
「別に、言いたい人には言わせておけばいいよ」
ベルトルトの元婚約者であり、主の妹でもある女性は、そう言って笑った。全くもって、その通り。誰に否定されようと、ベルトルトとアリシアの関係が主従であるのは変わらない。人を雇わないのは、2人の寝室が別々であることを、誰にも知られたくないからだ。そもそも、ベルトルトは寝室で寝ることも、一度も無かったが。
「ベルトルトがそうしたいなら、止めないけれど。せめて昼は、休んで頂戴。大丈夫よ、エミリーも居てくれるから」
或る令嬢の生き方─最強チート妹と、貴族の世界で2人。手を繫いで、いつか、本当の姉妹になる─ ワシミミズク @iicko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます