終章

彼女が話し終えた後、僕らは間の抜けた顔をしていた。

最初に茶々を入れていたボスも、途中から黙りになり、今は気まずそうに彼女から視線をずらしている。

微笑みながら話を聞いていた柵さんも、何か言おうとしては口を開けまた閉じてを繰り返していた。

ノッポは、真剣な表情で机をじっと見つめている。


――あんな話を聞いたら、そうなるよな。


僕は俯瞰して、ボス達を見回した。


この施設に緊急入院した彼女。

しばらくの間、隔離室で治療を続け普通の病室へ移り、他の療養者と話せるようになった後も。

彼女はどこか不安定で儚い雰囲気をまとっていた。


その脆さを必死になって押し隠そうとする姿に、僕は興味を持ったのだ。


内に秘めたものを暴きたい。

それがこんな形で叶うとは――。


彼女は窓を食い入るように見つめると、やがて顔を背け、薄暗い廊下へ歩いていってしまった。


無意識に彼女の跡を追いかける。


廊下は午後の微睡みも覚めてしまう程肌寒く、薄暗かった。


壁に画鋲で貼り付けられた何枚もの絵――治療の一環として描かされたものだ。


1つの絵の前で立ち止まった彼女は、小さくかぶりを振った後、足早に自室へ入ってしまった。


僕は彼女のいた場所に立って、作品を眺めてみた。

真っ先に彼女の絵が目につく。

黒で塗りつぶされた背景に黄色の満月が描かれた絵。

彼女の話を聞いたばかりだろうか、物寂しい印象を覚えた。

よく見ると、月に歪な線が入っているのが見える。


――満月に成りきれない中途半端な月。


不完全なものを描こうとしたのか。

でも、後からそれに耐えきれなくなって、後から欠けた部分を描き足したのだろう。

絵の具で線を何度も塗りつぶした痕跡がある。


薄い歪な線が、彼女の逃れられない性質を表しているようだった。


職員の間延びした声が聞こえる。

そろそろレクリエーションが始まるのだ。


僕は踵を返しボス達の元へ戻った。



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