蓋を閉じて続きを

切り分けたパイの中から見えているチョコレート色のぼくの残骸


12時にひっくりかえすおもちゃ箱「銘々夢ヘ行軍スベシ」


暗号をページの隙間に隠したチョコレートならとけるはずだよ


青色のラベルを貼ったお墨付き「ここに知的生命がいます!」


まどろみを覗きこんだらマグカップの底に残った夢を見ている


ケーキのおもてをぱきりと割って黒と白それから灰色せかい


陰惨な九九の答えを書きつける二二が四でひとが救えるか


ぼくの手を取って踊ってマドモワゼル朝が来てももう眠らないで


二月には二月の顔をするようにそこの窓にも言い聞かせたら


シャッターに風のにおいをまきこんで美味しく焼けるかなリーフパイ


砂時計の砂粒を測る手つき人を殺すときの正確さ


すり潰す胡桃の殻とアスピリン、フラスコの中の錬金術師


引き潮にさらわれてゆく三日月が空色のドラジェをまいて凪


紅茶ひとしずくを冷めるまま残すおやつの時間はまだ終わらない


紫の歯車のうえ手を引いてうさぎとふたり駆けてゆく夢


愛情を区切って区切って区切って箱に詰めたら可食部がない


銀色のりぼんを掛けたプレゼント包装紙ごと破く裏切り


早咲きの桜で染めた絹糸が解けないよう千切れないよう


まんなかにフォークを刺して溢れ出すフォンダンショコラのなかの温度


円い城壁を満たせば我が城の守りはたしかココアの香り


一輪ずつ砕いた心をまぶしたブーケを瓶に閉じ込め海へ


左胸のぼくの赤いポストから配達人の遥けき一歩

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そこの角のポスト 音崎 琳 @otosakilin

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