第10話 藤原紀香と美しいお母さん

 ある日の夕方。保育園にお迎えに行くと、園庭の一番向こうにいた怪獣さん。私を見つけるやいなや、ダッシュで走ってきます。


「ふじわらのりかぁーー!!」  


というでっかい声を張り上げながら。


 もう、どうしよう。どうしよう。どこにいるの藤原紀香? 私の所に走ってこられたらどうしよう? ……いや、来ましたけど?(泣)。


 お迎えに来ていた父兄の皆様に、この母は娘にどんな嘘を教えているのかと疑われるだろう……。心が折れそうになりながら帰りました。



 幼稚園のお迎えに行ったときは、もっと大変でした。帰り道、トイレに行きたくなった私は、スーパーのトイレに立ち寄りました。怪獣さんはトイレのドアの外。しばらくすると、怪獣さんの大きな声。 


「お母さん、まだぁ?」

「ごめん、ちょっとだけ待って。」

急いで服を整えていると、怪獣さんの恐ろしい一言。


「ねぇ、早くぅ、美しいお母さ〜ん!」


「……」


トイレの外ではクスクスと他所様よそさまの笑い。

どうしよう……出られない。


「う・つ・く・し・い・おかあさぁ〜ん!」


山か。やまびこ帰ってくるわ、その声。


 そそくさと、顔を見られないように、その場を去った母なのでした。

 以後、トイレには怪獣さんを連れて行くまいと、心に強く誓いました。

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