GFO(グルメファンタジー・オンライン) ~外伝 アリスの珍道中~

夕日ゆうや

コカトリスの料理

「いやぁっ!」

 アリスが声を張り上げ、目の前のコカトリスを倒す。

 コカトリス。

 雄鶏と蛇が混じったような生き物は血に伏せ、粉々に砕け散るエフェクトが映る。

 そして目の前にモニターが映る。

 〝コカトリスの肉〟〝紋章〟〝モンスターの生き血〟

 現れる文字に心踊る。

「これ、紋章も手に入るのか!?」

「みたいね。これで少しは楽な旅ができるね」

 紋章はこの世界のスキルにつながる大事な素材だ。基本的に紋章が多ければ多いほど、強いスキルを手に入れられる。

「しかし、コカトリスの肉か。こんなアイテムどうするんだ?」

「わたしの知っている店で頼んでみる? アケチ」

「アリスにはつてがあるのかよ。うまいもん食わせてもらってそうだな」

 俺は肩をすくませる。

 なんでもかんでもアリスに他世りっきりってのは男として情けないが、それでもうまい料理が食えるのならイーブンってこった。

 俺はにべもなくアリスに頼み込み、その店を紹介してもらった。

「ほう。お主がアケチか」

「あ。どうもっす」

 相手が大男だったもので、少し怖じ気づく。

 アリスには男友達がいたのかよ。

 まあ、ゲームだ。アリスも本当の女か分かったもんじゃないが。

「で、なんのようだ。アリス」

 大男、名をジークと言う。

「コカトリスの肉を調理してほしいのよ。そうそう、この間の〝コキュートスのうま煮〟もおいしかったわ」

 コキュートスのうま煮。なんだか食べてはいけなさそうな印象を受けるが。

 この『GFO――グルメファンタジー・オンライン』は様々なおいしい料理を取り扱うゲームだ。今度はどんな料理ができるのだろう。

 おいしさの頂点を目指すゲーム。

 なんとも面白いゲームだ。五感をフルにつかったフルダイブ型のMMORPGであるが故の利点。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚をフルに使ったうまいメシが食べ放題の、しかも脳髄の電気信号だけなので、実際の身体に贅肉は付かないという利点まである。最高のグルメゲームだ。

 ただし、料理の腕前がいまいちだとしっぱいすることもある。

「コキュートスはもちもちとした弾力のある歯ごたえと、絡めてあったソースの甘みがマッチしたともておいしかったわ」

 夢を語るように恍惚の表情を浮かべるアリス。

「俺も食べてみたくなったな」

「じゃ、一緒に狩りにく? 場所と攻略法知ってんだ」

 アリスがイタズラっぽく笑う。

「お。じゃあ、装備をそろえるから教えてくれよ」

「いいわよ。おいしい食べ物、じゃんじゃん発見しようじゃない」

 コカトリスの肉をジークに預けると、俺たちは〝角ウサギの角煮〟を肴に酒をかわす。

「うまいな。ほろほろと口の中でほどける感じと、甘塩っぱさが引き立つ」

 ここの店、しっかりとマークしておこう。

 NPCが運営する料理店もあるが、プレイヤーの経営する料理店はその比じゃないほどのうまさを出すときもある。もちろんプレイヤーのスキルによって変わってくるが。

 とにもかくにも、この世界でかなり腕の立つ料理店ということだ。

「ほらよ。〝コカトリスの唐揚げ〟だ。こっちは〝コカトリスのカレー〟そんでもってこっちが〝コカトリスの刺身〟だ。うまいぞ~」

 ジークがそう言い、料理を並べていく。

「うは~。うまそう!」

 俺はまずは唐揚げを口に運ぶ。

 サクサクの衣に中の肉厚でジューシーなコリコリとした歯ごたえに満足感を覚える。

「うまい! うまい! うまい!」

「ちょっとは静かに食べられないのかしら」

 呆れ顔のアリスも口に含むと何かを言いたげな顔になる。

「これは……おいしいわ。もっと食べていたくなる食感ね」

「そうだろう! このコリコリ感がたまらん」

「次はコカトリスのカレーか」

 匂いがスパイシーで見るからに辛そうだが、食欲をそそる。スプーンを手に肉と米を口に放り込む。

「ん!」「ん?」

 俺とアリスは同時に声を上げる。

 口の中ではじけるスパイスの香り、そして肉のコリコリとした食感。肉からあふれ出る旨みとコク。

 ビールをあおり、再び口にする。

 爽やかな口当たりにガツンとくる肉汁。相互作用で旨みが倍増されたかのような感覚。

 さらに付け合わせの福神漬けがいいアクセントになる。

「これはうまいな。今度、俺の友だちにも食べさせてあげよう」

「ふふ。いい案ね。わたしも友達にお勧めしようかしら?」

「そっちの方が絶対いいって!」

 俺が立ち上がると、驚いた顔をするアリス。

「そ、そう。そこまでいうなら……考えておくわ」

「良いものはみんなに教えたくなるものさ」

 俺はそう言いながら最後の〝コカトリスの刺身〟を頂く。

 衛生上の問題で実際に生肉なんて扱えないから、ここで食べる生肉は貴重だ。

 どんな味がするのだろう。

 見た目は鶏肉みたいだから、さっぱり淡泊な味わいなのだろうか。それにコリコリとした食感がしていたな。

 箸で薄くスライスされた刺身を口に頬張る。

 濃厚な旨みと強烈な香り。食感はふわふわで火を通すのとは違う味わいがある。

「これもうまい。なんてこった。どれもこれもうまい料理ばかりじゃないか!」

「ふふ。そうね」

「ようし。今度はもっと上級モンスターを狩ってくるぞ。アリス付き合ってくれ」

「はいはい。いいわよ。あなたとなら」

 アリスと一緒に旅ができる嬉しさとこれからの料理に期待して、俺はフルダイブを切った。


 ベッドに横たわっている俺は立ち上がり、一階の食堂に降りる。水でも飲もう。

悠斗ゆうとお兄。おはよう」

 水を飲み終えると妹の春名はるなが嬉しそうに話しかけてくる。

「なんだ? 嬉しいことでもあったのか?」

「うん! 好きな人とデートの約束したの!」

 好きな人。その言葉にモヤモヤする俺。

 何嫉妬しているんだ。俺にはアリスがいるじゃないか。

「そっか。じゃあ、お互い頑張ろう」

「うん!」

 そう言って俺はまたフルダイブするのだった。

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GFO(グルメファンタジー・オンライン) ~外伝 アリスの珍道中~ 夕日ゆうや @PT03wing

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